第3章 或る街の群青 [死柄木]
『個性による降雨は現在も続いており、お天気回復のめどは立っておりません。都内は冠水に見舞われ___』
画面の先のキャスターは昨日と同じことを繰り返す。
俺は昨日と同じく傘を差し、雨雲の下を歩く。
俺を空で表すなら、たぶんこんなふう。
雨は嫌いだけど、自分に似ているとは思うのだ。
光が見えない、じめじめとした暗い世界。
車が走る音と、雨音しかしない、昼か夜かもわからない。
そんなのが俺だ。
「はぁ。」
「あー、おはよう。」
うだうだと考える頭の中に、一筋の光が指す。
バス停から手を振る、明るく大げさな笑顔。
馬鹿みたいに笑ってる。
なんて馬鹿でのうてんきなんだろう、なんて思って、それで、気が付くんだ。
うだうだとした気持ちはどこかへ消えている。
「まだ雨、降り続けるってな。」
「え、やったぁ!どっかの誰かさんの個性のおかげですね!」
「都心は冠水で混乱状態だと。喜んでるのなんてお前くらいだ。」
「学校とか休みになって、誰かは喜んでるんじゃないかな。」
晴れの日みたいに、そいつはけたけた笑う。
うれしくて仕方がないみたいに、目をキラキラと輝かせながら。
なぜいつも、そんなに嬉しそうなんだ。
「お前はいつも嬉しそうだよな。」
「だって、あなたが来てくれるからですよ。」
笑ってる。
きらきら笑ってる。
馬鹿、みたいに。
「照れてます?」
「ない。」
雨、やんだかと思った。
「誰かと話せることは、うれしくてたまらないんです。」
雨はやんでいるわけなくて、目の前のそいつはその雨をじぃっと見つめていた。
目線の先にある花は、雨の中で少しだけ、元気なく揺れていた。
心臓が大きく揺れて、息が少し、上がった。
「お前は、恨んでるか?」
その当たり前でくだらない質問が、なぜか口から飛び出した。