第3章 或る街の群青 [死柄木]
「よお。」
「わ、来たんですね。」
次の日も雨はやまなかった。
雨を降らせた個性についてはまだ解析されていない。テレビの向こう側では気象予報士が四苦八苦していたのがみえただけだった。
「特にやることも、ないんですけどね。」
「雨のせいでな。」
「じゃあ、私何もすることないじゃないですか。」
ぷっくりと膨らます頬には、血の気が通ってない。
死んでるから。
「あ。」
そう指さす先には、本来のこいつの姿であろう、傘をさす女子高生。
スカートには南、と角ばった文字が載ってる。
「私の、通ってた学校。」
「ほぉ。」
「かわいいなぁ。」
その女子高生を見ながら、そんなことをこぼす。
かわいいとか、そういう価値観に俺は興味はないけれど、あの女子高生はたぶん普通の部類だと思う。女子同士のそういう文化だろ。
「頬がピンク色で、脈拍があって…素敵。」
「ああ…そういう。」
幽霊特有の価値観か。
なんて反応すればいいのかわからない。
「幽霊ギャグですよ、笑っていいのに。」
「笑えない。」
幽霊は笑わない俺の代わりにけたけたと笑った。
「晴れ男さんはあまり笑わない。」
「生まれつきだ。」
「私は死んだらよく笑うようになりました。」
「”死につき”だな。」
「お、いいギャグですね!」
そいつはまた、笑った。
生きている俺よりも。
いつだって太陽を見られる俺よりも。
死んでるそいつは。
人と話すことを。誰かとかかわることを。
「きっと、似合いますよ。いつか、見せてくださいね。」
「さー、どうだか」
俺はそっちを向かないで、昨日と同じ花束を見る。
紫色で、小さい花。
人って死んでも、こんな風にできるもんか。と思ったり。
すると隣のそいつはすっくと立ち上がり、雨空のもとへかけ出た。
「おい、なにして」
「この花束、気になります?」
雨の白い霧の中。そいつは薄汚いガードレールのもとにしゃがみ込んで花束をつんつん指さした。
「目につくんだよ。」
「私も、気になってます。」
「は?」
雨の中、太陽みたいな笑顔を作り、こちらにくるりと振り返る。
雨は、そいつを透過している。
あいつはだって、幽霊だから。
「花を置いている人って、誰だろうって。」
「はぁ。」
「すごく、気になりませんか?」