第3章 或る街の群青 [死柄木]
幽霊は、語った。
自分はもう、死んでいるということ。
“個性”によって幽霊になっているということ。
身体が水で構成された幽霊だから、
雨降りの日だけ、現れること。
「世界に影響を与えることなんて、もう無いと思ってました。……人と、話すことなんて。」
幽霊はこちらを向いて、カラッと笑った。
「嬉しいです。」
「へえ。」
雨がやむ気配は、なかった。
雫が地面にぶつかって弾ける音で、あたりは包まれている。ぽつりぽつりという小さな音がふり積もって、ざぁっというと大きな音を作り出しているようだ。
他の音を食べてしまうみたいで、
俺はその音が、嫌いだ。
「梅雨、だといいです。」
「は、」
「梅雨なら私、またここにいることができるから。」
「へぇ」
「それに私、雨が、好きなんです。」
幽霊の声は、雨音の合間をすり抜けて俺の耳へと届く。
「俺は嫌いだけどな。」
「人、それぞれですから。」
黒い髪を揺らして、幽霊は笑う。
『生きていれば』いいことがある、というみたいに。
あ、死んでるのか。
「また明日、会えませんか?」
「はぁ?」
「雨が降っていたら、また。」
「めんどくさいだろ。それに、俺には会う理由がない。」
「じゃあつくればいいんです。」
あたりまえのことを言うように幽霊は言った。
「貴方を呪います。」
「はぁ?」
理由が分からない笑顔で、幽霊はニタリと笑った。
初めてこいつ幽霊なんだな、と思った。
「来ないと、悪いことが起きます。」
「そんなのできるのか。」
「分からないけど…私生前は、やったらできちゃう子だったので。」
なんだその自信は。
「待ってます。」
俺は返事をせずに幽霊から背を向けた。
口を歪ませて笑う幽霊に、少しの可能性を覚えて、背筋を震わせた。
その日、柄にも無く晴れを望んで見た天気予報では、傘マークがゆらゆら揺れていた。傘マークと一緒に、黒く縁取られた白い文字が映る。
【個性事故により、当分雨模様】
「なんだそれ。」
声が漏れた。