第2章 Hero Appears [轟]
観客席に駆け出ると、つむぎの顔に風が強く吹き付けられた。冷たい風だ。
さすがの混み具合で、完全に出遅れたつむぎがやっと見られたのは、第二回戦第一試合だった。
つむぎはスタジアム中央に目をやった。
緑谷 VS 轟
緑谷が轟の氷結を防いだところを見て、たたっと観客席最前線まで駆け抜ける。
写真は、ちゃんと胸にある。
冷たい風だ。
2人とも、苦しそうだけど。
みんな、ヒーローになる為に。
全身が胸の高鳴りで湧き上がるのを感じた。
つむぎの脳裏に昨日の彼の声が走る。
そして少し、焦っていた。
私の適当な言葉でもし彼が、目指せなかったら。
でも緑谷を見て、つむぎはそんな焦りもふっと消えていた。
緑谷は両腕グチャグチャにしながら轟とぶつかっていたから。
凄い、とつむぎは息を飲んだ。
同時に、羨望も。
あんなふうに、ぶつかれる個性があったなら。
私も、彼に言葉を伝えられたのに。
彼は、凄いヒーローなんだね。
「すごいね…。ありがとう。」
涙で滲む視界で、つむぎは笑っていた。
目尻が熱いとはこのことかと目を細める。
なんの涙かは分からなかった。
胸がぐつぐつ痛い。
涙が落ちる。
落ちる。
悔しくて、苦しくて、悲しくて、
嬉しくて。
滲む視界が赤く燃え上がった。
つむぎはその明かさにもう一度息を飲む。
久しぶりに見たその炎は、胸に感じた火と同じで、熱く、明るく、闇を吹っ飛ばす。
「やるじゃん、ヒーロー。」
彼女は笑う。
嬉しくて、嬉しくて。
彼女は泣く。
肺いっぱいに空気を入れて、前を向く。
「吹っ飛ばせっ!しょーとー!!」
氷と炎が彼を包んでいる。
轟の耳に、父親の声より先にその声が届く。
単純で純粋で、明るく楽しく輝く声が。
「吹っ飛ばせー!!」
つむぎは底抜けの笑顔で笑う。
嬉しくて、楽しくて、仕方がないように。
『遊ぼうっ一緒に!』
『楽しいこと、いっぱい!君と一緒に遊びたい!』
あの時と、同じに。