第2章 Hero Appears [轟]
雄英体育祭、控え室。
轟はじっと左手を見つめていた。
『憧れてた。』
声が彼の頭に響く。
憧れてたのは、どっちだ。
何より単純で、明るく楽しく輝いて、闇を吹っ飛ばす。
『ピンチの時には、呼べばいいんだよ!』
彼にとってのヒーローは、
「はぁ……っし。行くか。」
息を整え部屋を出る。
グチャグチャな頭の中、彼の頭の中で唯一まっすぐ覗く光だけは、昔と変わらない。
なのにこれまで変わらなかった、揺るがなかった彼の光は昨日、儚く脆く揺れていた。
俺と、同じに。
そのことに驚き、戸惑った。
『ピンチの時は、必ず現れる!』
でも彼は信じている。
彼はヒーローを信じている。
「ヒーロー見参、ヒーロー見参。」
真面目な顔に似合わないセリフを、轟は懇願するように唱えた。
「ヒーロー…」
呪文を途中で止めて、口を噤む。
それでも、にっと笑う顔が道しるべだった。
彼は待っている。
もうずっと長いこと、ヒーローを。
『ヒーローは、必ず現れる!』