第2章 Hero Appears [轟]
「あっ…や…」
言いたいことは、言わなきゃならなかったことは、こんなんじゃない。こんなの言っちゃ、ダメだって。
瞼のあいだから熱いものが滲んだから、顔を囲んだ腕で目を覆った。
「…君の気持ち、ちゃんとわかんなくて。ごめん。」
違う。もっとカッコイイこと、言わなきゃ。
『君は怒りの中で、なにも見えなくなってる。』
『君の本当になりたいものはなに?』
『なりたいもの、ちゃんと見えてるの?』
「…私には分からない。私の家、平和だから。君の気持ちが、分からない。」
ちゃんと、言わないといけないのに。
笑顔にもなれなかった。
「でも…そんなの…関係ない。…君は、なりたいものになればいいよ。なれる人だもん。」
「っ、」
目の前の彼は、その言葉で目を見開く。
「…お前も、」
「私はっ!」
顔を覆っていた腕をのけ、にっと笑う。
多分変な顔。目、腫れてるかな。
「…違った。」
腕は自然と離れていった。
「体育祭、見にいくね。…期待してる。」
顔が見れなくて、下を向いた。
一瞬だけ見えた顔は、迷子のような顔だった。
私は最後にもう一度だけ笑ってその場を去った。
振り向いてしばらく歩いてたら、涙が出た。
喉がしゃくりあがってしまったから、なんとかしなきゃと空を見上げた。
空は青く、高く鳥が飛ぶ。
手を伸ばしてもとどかなかった。
「私が、なりたいものは。なれるものは。」
溢れる涙を手の甲で押さえつけた。
「私は、」