第2章 Hero Appears [轟]
「なぁ、つむぎ。」
次の日も、轟とつむぎは同じ道を歩いていた。
つむぎはその声に振り返ると、わざとらしく大きく笑いながら語りかける。
「なあに?そんな真剣な顔して。」
「俺は体育祭で…」
つむぎは足を止め、完全に彼を振り返る。
真剣で深刻で、切実な顔。
つむぎの頬はまだ緩く上がっていた。
「アイツを完全否定しようと思ってる。」
「アイツ…か…。うん、そっか。」
つむぎは風で乱れた髪を耳にかけ、小さく頷いた。
“アイツ”が誰かなんて聞かなくてもわかった。
「…お前は、俺を軽蔑するか?俺を止めるか?」
「止めて欲しい?」
「…いや。」
「私は別にいいと思うよ。」
いつもと同じ笑顔でつむぎは返す。
轟の一世一代の決意なのに。
まっすぐ覗く瞳はブレずに彼を見つめ続ける。
「人が戦う理由にどうこう口出し出来ないし。そういうのもあってもいいと思うけど。」
「つむぎ…」
「君がそれを望んでるなら…君がそうしたいならね。」
ニッと微笑む彼女に、轟の眉の力は少し抜けてしまった。深刻な悩みをこうも適当に返されるとは。
「やりたいようにやっちゃえ。」
なんて適当なことを言いながら彼女は笑った。
「…気ぃ抜けた。」
「…踏み込んだことは言いたくないから。薄っぺらい意見でごめんね。」
「…じゃあ…」
轟の声を、風の音が邪魔をした。
首の後ろに腕をまわし鼻歌を歌う彼女の後ろ姿が、轟は熱を含んだ真剣な目で見つめた。
「じゃあ、踏み込めよ。」
「へ?」
驚き振り向く彼女の腕を、轟は捕まえた。
つむぎは一度腕を見下ろし、それから目を丸くして轟を見た。
彼の顔は赤く、目は熱を含み、力は強い。
「お前には踏み込んで欲しい。」
「……」
「つむぎは、どう思ってんだ。」
つむぎは抵抗しなかった。1度大きく瞬きをして下を向き、ポツリと呟く。
「…私は、エンデヴァーさん好きだよ。もちろん、君も。」
「そ、ういうんじゃねぇ、」
「……私は、ずっと。」
つむぎは一方の腕で顔を隠した。
「…憧れてた。」