第2章 Hero Appears [轟]
走る足に、いっそう力を込めた。
強く、強く。
『私は努力したよ!誰よりも、何十倍も、何百倍も何千倍も!!』
息が切れた。
喉の奥が、鉄の味がした。
意味も無く走ったのは、もう何回目のことだろう。
『血反吐を吐くまで走ったよ!全部全部捧げた!』
そこまで早く家に帰りたい理由もないし。
でも、走らずには居られなくて。
『なのにっなんで!!』
私は、努力した。
誰よりも、何十倍も、何千倍も。
ヒーローに、なりたかったから。
『だって、君には“個性が無い”だろう。』
『君は無個性の女の子だ。無理だって。』
『喚くほどのことじゃない。この世界には君のような人間がゴロゴロ居る。』
受験の時だった。ヒーロー科の面接で、試験官の全員にそう言われて。感情的になって言い返して。
でもそれが、私の現実だって。
無個性でも、ヒーローになれるって証明したかった。強くあれるって。希望になりたかったのに。
私は、ヒーローにはなれなかった。
「はぁっ…はぁっ…。」
膝をついて息を整える。
そこから見える地面では、ありんこが列をなしていて。何かを必死に運んでいる。
地面には、鳥の飛んでいく影も見えた。
あの鳥は、なんだろう。
あの時、私は受けたヒーロー科、全て落ちた。
妥協にまみれた私の出願書類は、普通科という文字だけ優に通したんだ。
「空…飛んでみたかったな。」
ポケットが小さく揺れるのを感じてその中を取り出すと、メールが一件届いていた。
【明日も一緒に帰ろう】
顔が自然に、歪んでしまった。
彼は好き。すごく。
とても大切だし。
あの紅白の髪を見ていると、前はなんだか自然に笑えてた。
今は少し、ホントの笑顔じゃない気がする。
【いいよ!でもそっちでも友達作らなきゃダメだからね(`v´)】
素早く返信を打ち、返す。
携帯電話を祈るように握りしめ、おでこにつけた。
私は、何処を見て歩けばいいの。
誰になれるの。
いつから、変わってしまったの。
息を大きく、ついた。