第10章 それでは、また明日[空却]
「くーこーが帰ってくるまで少し話さない?」
「あ、っす!…あ、でも、怒られるかも……」
「だーいじょうぶ、私が言っとくよ。」
ふたりで濡縁に腰を掛け、空を見上げた。
そこから見える日は輝いて綺麗で。でもその景色は、少し、つむぎにはまぶしすぎる。
「それで…その、ヒトヤさん?って人に連れて来られて…ってとこまでは聞いたけど、いったいどうして連れてこられたの?」
「あー、えっと……」
「あ……辛いなら無理しないで。ごめんね、変なこと聞いて。」
「いや…えと……大丈夫っす、もう大丈夫なんで。」
そう言って彼がゆっくり話し始めたのは、過去の辛い出来事。酷く残酷で恐ろしくて苦しいお話だった。
つむぎは、話させて辛い思いをさせている己が嫌になっていく。
つむぎはただ、その“辛い話題”から逃げるのに必死になった。彼を逃がすのに躍起になった。
「…そっか…それで、ここにいるんだ。…もともと仏教とかは信じてた?」
「いや、そういうのは、あんまよくわかんないというか、スピリチュアル的なものは、あんま信じてないし…。空劫さんが怖いから言ってないんすけどね。」
「まぁ、多分怒らないとは、思うけど…」
「怖いっすよぉ…。」
時折ふっと笑ったり、涙ぐんだり、頬を膨らませたり。本当に、楽しそうで。話し続ける彼の横顔は、つむぎにはまっすぐで綺麗に見えた。
「スピリチュアルなこと信じてないってことは…幽霊とか、神様とかも?」
「はい。基本的に信じてないっす。幽霊とか…だって、いたら怖いじゃないすか!1回痛い目にあったし……それに、」
彼はつむぎを向いて、にっこり、笑った。
「神様は見つけてくれなかったけど、ヒトヤさんは見つけてくれた。それで、空劫さんにも会えたんす。…そして…それを選んだのは、自分っすから!自分は自分で強くなるんす!」
十四は胸をはって答える。
つむぎは、言葉が出なかった。
ただ少し、身体が震えた。
少しだけ、泣きそうになった。
年下には弱みは見せられないと、
つむぎは必死になって隠す。
そのためにただ、
バカみたいに、相槌をうった。