第10章 それでは、また明日[空却]
1段飛ばしで石段を駆け上がるなんてこと、今日は出来なかった。
だって昨日の反動で筋肉痛が来ていた身体には苦しくて。それに少し、寝不足で。
「くーうこーお!!!」
つむぎは石段をのぼりきったあと、息が切れたまま叫んだ。
また、昨日と同じに返してくれると、そう信じて。
しかし、つむぎのより大きな声も、汚い言葉も、今日は返っては来なかった。
「あれ、くう、こう?」
心臓のあたりがぐわっと泡立って、じわじわと何かが広がっていく感覚があった。
なんだ、これ。
私は、
ここに、帰ってこれて、
それで、
私は、
「あ、つむぎさん。」
「…あれ?」
箒を持って奥から出てきたのは、昨日出会った不思議なしゃべり方をする男の子、四十物十四くんだった。
ところどころに金髪が混じった長い髪とこの寺の作務衣が、なかなかどうして似合わない。いや、一周まわってオシャレに見える。それも彼の容姿が整っているからだ。
「十四くん?」
「っす!あ、空却さんなら檀家さんのとこをどうのって言ってたっすけど…なにか空却さんにご用っすか?」
「あ…そう、なんだ…。」
昨日とはまるで違うしゃべり方の彼は、纏う雰囲気もまるで別人だった。
おしゃれな髪形をゆらゆらと揺らして金髪を煌めかせながら、彼はつむぎの様子をうかがっていた。
「あ、別に、用事…という用事はなかったんだけど…。」
「あれ?そうなんすか?なんか、凄く大きな声で空却さんのこと呼んでたからつい…」
「そっか。よく気が付くんだね、ありがとう。」
そう言うと目の前の彼は嬉しそうにきゃぴきゃぴと花を飛ばした。
つむぎは十四くんにヘラヘラと笑い返しながら、ふと疑問を投げた。
「十四くんはどうして此処にいるの?」
「それは…実は自分、空却さんの元で修行してるんす!」
「しゅぎょう?」
目の前の彼は純粋極まりなく、嬉しそうに瞳をキラキラさせながら語り始めた。
すっごいなぁと、ただそれだけが心に刺さる。
「楽しいんだね。」
「そうなんす!…強引なのはやめて欲しいっすけど……。」
「あ、へへ、うん。そうだね。」
「そうなんすよぉ。」
つむぎにはそれだけでも、なんだかとても、きらきらして見えた。