第2章 Hero Appears [轟]
「もうすぐ体育祭じゃん!私楽しみにしてるんだ!」
「そうか。」
「君に期待してるの!ぜぇったいカッコイイ!」
ぴょこぴょこ弾みながらつむぎは喋る。
轟の暗い顔を見ないように。ドロついた気持ちを、生まない様に。
「これでいい成績残せれば、すっごいんでしょ!」
「そりゃあ、な。」
「やっぱしヒーローになる前にサイン貰っちゃおうかな!」
きししと彼女が笑うと、轟は足を止め、彼女をじっと見つめた。言葉の代わりに逸らさず、真っ直ぐ。
「つむぎは、」
「ん?」
「もう、ヒーローにはならないのか?」
その瞳に、つむぎは一瞬動きを止めた。
上がっていた口角は凍りついて、彼女は笑っていた口を静かに閉じた。
「もうずうっと、見てるでしょ?」
「…。」
「私は、無理だった。」
「でも、」
「飛べない鳥もいる。」
風に打たれながら彼女はからりと笑う。
轟からは顔が見えない。
彼女をずっと見ていた彼も、今の彼女の顔は想像がつかなかった。悲しげな顔なんて、想像したくなかった。
「小さい頃は、月にだって触れたのにね。君にだって、」
そこまで言って、つむぎは大きくジャンプした。
空にタッチするように、高く高く、大きく。
「おっ、おい!」
「あっ」
着地する足が大きくぶれて、つむぎがぐらりと揺れる。
倒れそうになったつむぎを、轟は慌てて支えた。後ろから肩を抱く様な形で支える轟に、彼女はまたヘラっと笑う。
「…カッコイイねぇ。」
「俺はお前のカッコ悪いところ、見たくねぇ。」
轟の言葉に、彼女は自嘲的にニコリと笑った。
つむぎは起き上がり、轟に向かい合う。
「ありがとう、“ヒーロー”。じゃあもう、行くね。」
「おい!」
「じゃあ、またね!」
つむぎは轟に背を向け、逃げるように駆けていく。
「まだ、信じてたんだ。」
つむぎはまた、ため息をついた。