第2章 Hero Appears [轟]
【完全無欠〜♪誰に〜も負〜けない♪】
街の喧騒から聴こえてくるのは、ヒーローの歌だった。
いつもこの店から流れてくるのはこの曲。
つむぎはその歌から耳を塞ぐようにイヤホンをつけた。
お目当ての彼は、まだもう少し先に。
棒付きの飴を咥えながら、耳から聞こえる音をそのまま鼻歌にした。
「ふふふーんたたーったーん♪」
足取り軽く街を抜けると、その先には彼が居た。
「わお!ゆーえーの轟ショートさんだー!テレビ出みました!サインくーださい!」
「お…つむぎ。遅かったな。」
「えぇ?時間通りだよ。」
「いつもお前は遅いからな。」
紅白の頭の前で、少女はとっ、と足を止めた。おどけて話しかけるつむぎに、轟はいつも通りに話しかける。
けたけたと笑うつむぎと、表情を変えない轟。ふたりにとってはいつもの事だった。
「ゆーえー高校では、お友達できた?」
「まだ4月だぞ。出来てない。」
「あちゃー」
「そもそもいらない。」
「ダメだねぇ、そんなんじゃあ。」
つむぎは棒付きの飴を右手で取り出し、得意な顔をして轟を諭す。
「ヒーローになるんでしょ?」
「そうだけど。」
「いろんな人と仲良くなるのがコツ!」
つむぎがそう言っても、彼は憮然な顔をした。
「お前は、」
「ん?」
「いや。」
つむぎの疑問を無視し、轟は黙って歩き出す。
「もー無表情じゃわかんないよ。言いたいことあったら教えて!」
「…努力する。」
努力って…とつむぎはため息をついた。
「もう!あっ、そういえばエンデヴァーさんがこのあいだ」
「その名前は」
「わっわかった、分かったよう。」
「ならいいけどよ。」
名前を出した瞬間、轟から殺気を感じた。それが悲しくて、彼女はもう一度ため息をついた。
「私は君の個性、ふたつともカッコよくて好きなのに。」
「俺は嫌だ。」
「…そ。」
彼女は飴を噛み砕いた。
彼女は彼の火傷で爛れた左側を、眺めるだけしか出来ない。
何をすれば、何を言えば、いいのか。
ヒーローなら、なんて言うのか。
彼女は分からない。
分からなくなった。
「…君は君だよ。」
「そんなこと分かってる。」
届かない言葉に、彼女は目を瞑った。