第10章 それでは、また明日[空却]
「ね…つむぎ、」
「ん?」
手を洗ってから部屋に戻ると、そんな心配そうな声が部屋に響く。
その声につむぎの息は、詰まりそうになる。
途端に息の仕方を忘れてしまいそうになった。
「大丈夫…?」
「うん。」
「つむぎ、なにかあったの?」
「…なんにも?ただ、その…」
「お母さんが心配するのはわかるよね?」
「……。」
「大学生が突然中退して実家に帰るっていうのは……やっぱり、その…」
「うん、わかってるよ。」
「もし何かあったら、お母さんに話してちょうだい、ね?」
「だから大丈夫だって。この話はまた今度にしよ?」
「…うん。そうね。」
つむぎは逃げるように部屋に戻り、すうっと息を一つ吐いた。
大丈夫、大丈夫。
私は帰ってきた。
何もかも安全な、安心できる場所に、逃げて来れたはずだから。
何度言い聞かせても、つむぎの心は晴れることはなかった。なんど大丈夫だと、言い聞かせても、息は、しづらいままだった。
「よーし、ご飯食べよう。」
そう自分に言い聞かせて部屋を出て、それからお母さんとご飯を食べた。
つむぎは言葉を探すことに必死で、味が一切分からなかった。自分の為に食べているという感じがしなかった。
大丈夫、なはず。
きっと、これから何もかもうまくいく。
そう何度も何度も、言い聞かせた。
布団に入っていろいろ考えながら、つむぎは無理やり自分を眠りの中に押し込んだ。
その夜もまた、酷い夢を見た。
家が無くなって、何も無くなって自分はただその何も無い道を彷徨い続けるって夢。
家が無くなったのは、何にも無くなったのは、全部自分のせいだって、夢の中で思っていた。