第10章 それでは、また明日[空却]
帰る途中、2人はいろんなことを話した。
高校の時イケブクロに行って何をしてたのか、とか。ラップがどうのこうのとか。
つむぎは知らない世界のことを聞いて、知らない世界で生きてきた友人を見て、少し、寂しくなった。
その寂しさは、必死に押し殺した。
だって、そんなのウザイでしょ?
「うっわー!やっぱ空却ってかっけぇんすよ!なに、ディビジョンラップバトルって!」
「ひゃっはっは!拙僧やっぱちげーから!」
「こんど白膠木簓のサインもらってきてよ!」
「それは、断る。」
「えー!なんでぇ。」
つむぎは道の縁石にに乗りながら、空却を覗いた。少しある身長の差が、少し縮まる。
「お母さんは元気かな。」
「そういうのって普通お前の方が知ってんじゃねぇの?」
「……ううん、全然連絡、とってなかったから。」
「ふーん。」
それでもつむぎの身長は空劫には届かなかった。
家には明かりがついていた。
つむぎがただいまを言うと、家の奥からパタパタと音が聴こえた。
つむぎはただにっと笑って見せた。
それくらいしか、できなかった。
「ただいま、お母さん。」
「つむぎ…!おかえり、つむぎ。」
「家の鍵、変えないでくれてありがとね。」
目を見ることが出来ないまま、つむぎは軽口を繋いで、続けて。
それで、必死だった。
「あら波羅夷くんも。ありがとうね、つむぎと仲良くしてくれて。」
「いえ、つむぎとは昔からの仲なんで。」
「…帰ってくるなんて、あまりにも突然なんだもの、びっくりしちゃってね。」
「あ、はは。」
続かなくなった軽口を、乾いた笑いで誤魔化した。
「じゃ空却、また!」
「おう。」
そう言うと空劫は後腐れなくさっぱり振り向き去っていった。
本当はもう少し、ここにいて欲しいというのがつむぎの本心だった。
この空気の、緩衝材として。
「さ、夜ご飯食べよっか。手、洗ってきなさい。」
「…うん。」
靴を脱いで廊下を走る。
見慣れた家、心安らぐはずの実家に、
つむぎは帰ってこれた。
そう思おうとした。