第10章 それでは、また明日[空却]
「我がマスターになんの用だ。貴様は何者だ。」
「わ、え、?ます、たー……えと、え?」
珍しい言葉使いをされ、つむぎは言葉の意味すら一瞬分からなくなる。困った顔で空却を見ると、今にも笑いだしそうな顔をしていた。
「ほれ、名前言えって。」
「あ、名前…、糸滝つむぎ、です。」
「糸滝つむぎ!」
「あ、そう、そうです。」
「そして我は!」
「もう聞きました、よ」
「我は浪漫と黄昏の戦士、14th moon!!」
「あれ、さっきと違う、」
「我は数多の名を持つのだ。」
「じゃあ、どれで呼べば…」
「好きな名を選ぶが良い。好きな名と通り名を組み合わせて呼ぶが良い!」
「えー、そんなサーティワンみたいな…」
「サーティワンは好きだ!」
「あ、お好きなん、だ」
必死に受け答えあっぷあっぷなつむぎを見て、空却はとうとう吹き出し大笑いした。
「ひっ…ひひっ…ひゃーっはっはっは!」
「わ、笑ってる…!」
「これが笑わずに居られるかってんだよ!」
空却は笑う。信じられないくらい笑う。笑い転げる。昔と同じく大声で高い声を出しながら変な笑い方をする。喉が病気になりそう。
つむぎは混乱していた。目の前の彼はまだ不思議な立ち方をしながらつむぎを見下げているし。
「ひーっ、笑った笑った。もういいかな。」
「どういう…」
「十四!もーそろそろそのモードやめろよっ!」
そう言うと空却はバシッと彼の頭をぶっ叩く。「いったあ!?」と少年のような声がした。
「いったぁい!空却さん何するんすか!」
「此奴、四十物十四。拙僧の元で修行してんだよ。まぁ色々あって、初対面とかだとこんなイカれたな喋り方すんだよな。」
「イカれたって…カッコよくないっすかぁ?」
さっきとはガラリと雰囲気の変わった彼は、涙目になりながら空劫を見ていた。つむぎはぐっと唇をかみ、状況を必死に理解しようとした。
「十四くん、ね。うん。」
よろしくね、とつむぎが言うと、その子は「っす!」と緊張気味に言った。
分からん。
分からんが多分、良い子なんだろうなと思った。