第9章 荒野を歩け[帝統]
「帝統はバカだね。」
「…つむぎ、居たのかよ……。」
身ぐるみ剥がされてパンツ一丁で、ゴミ捨て場に捨てられている哀れな男に、つむぎは話しかける。
ギャンブル、あんなにいい調子でいっていたのに急に負け始めて、気がついたらこんなことになっていた。
つむぎは“人生山あり谷あり”の体現を目の前で見てしまった気分だった。
「飴村さんに聞いた。なんか、すんごいモノ手に入れようとしてたんでしょ?」
「……お前には言わねぇ。」
「なんだそら。まぁいいけどさ。」
帰ろうよ、とつむぎはゴミ捨て場の彼に手を差し伸べる。
「俺は、かっこよくないんだろ?」
「んー、」
差し出した手は掴まれることは無かった。
つむぎはゴミ捨て場にちょんとしゃがみこみ、パンツ一丁人間を覗き込む。
「カッコイイ、って言ったら帝統じゃないって気がしたから。」
「あ?」
「帝統は変だし、変態だし、変人ギャンブラーだし。」
「変ばっかじゃねぇか!」
「それが帝統だよ。」
不貞腐れたパンツ一丁人間はゴミ捨て場に寝転がる。バカだなぁと、つむぎは笑った。
「でも今日は、カッコよかった。」
「…マジ?」
「なんか、生きてるぞ、って感じで。」
「い、きて」
パンツ一丁人間はその言葉にハッと気がついたように体を起こし、
「ぎゃっ!?」
しゃがんでいるつむぎを抱きすくめた。
あまりの勢いに、つむぎはドテンとしりもちをつく。
「そーなんだよ!俺、さいっこうに生きてるって気がするんだよ!」
「へ、」
パンツ一丁人間に抱きすくめられたつむぎはぴしりと固まって動けない。
ゴミ捨て場で、パンツ一丁の人間に、抱きしめられる。5W1Hの闇鍋みたいな今の状況に混乱が止まらない。
「ギャンブルしてるときと、あと、」
「ね、ちょっと、離し、」
「お前と居るとき!」
「んぎぇっ!?」
抱きしめる力が強くなって、つむぎは変な声を漏らした。
「お前と居ると、生きてるって感じがする。」
混乱しながらもつむぎは、回された腕にそっと手を添えた。汗でちょっとベトベトしていた。
「好きだ。つむぎ。」
背後から聞こえた掠れた声は男らしくて色っぽくて、
つむぎは、ちょっとカッコイイと思った。