第9章 荒野を歩け[帝統]
パンツ一丁人間を家まで送るのは難しい。
誰か1人にでも会ってしまったら多分捕まるだろう。
パンツ一丁人間なんて明らかに変質者だ。
家にたどり着いたつむぎは胸を撫でおろし、いつも1人でパンツ一丁の時どうしてんだろうと考えた。
帝統は勝手にタンスから服を出して着ていた。元来つむぎの兄が遊びに来た時用のやつだ。
「お菓子食べる?ルマンド。」
つむぎは買い置きしてあるお気に入りのお菓子を帝統に振舞った。つむぎはブルボンが好きだ。
「あーパチの景品で見た事あるな。」
「やだなその認識。」
つむぎはルマンドを一つ手に取り、頬張る。
ぼろぼろこぼれた。
「これ好きなのか?」
「うん。」
「ふーん」
「ブルボン全般的に好き。」
「今度持ってきてやる。パチのやつ。」
めっずらしい、と帝統を見ると目が合った。
真剣な帝統の顔に、自分の顔がちょっと赤くなるのを感じた。友人には感じない頬の熱。
「乱数の言ってたすごいモノって、お前へのプレゼントだよ。」
「へ、」
「超でっかいダイアとか。お前にやろうと思ってた。」
帝統が伸ばした腕を、つむぎは拒まずに受け入れた。大きな背中をぽんぽんと叩けば抱く力は一層増す。
「超でっかいってとこがバカだね。」
「るせぇ…!」
余裕ぶっているが、つむぎも緊張しているし顔赤いし手汗が出ている。恥ずかしいし、心臓もうるさい。
帝統はつむぎの肩を掴んで離し、顔を捕まえて、帝統はつむぎをまっすぐ見つめながら言う。
「キスしてぇ。」
今度はうっかりじゃない。
ただの意思表示だ。
「いやか?」
つむぎは一瞬固まったあと、
ぎゅっと目を瞑った。
ちゅ、と音を立てながら唇が触れる。
ルマンドと、煙草の味。
「や、じゃない」
帝統はにまっと笑ったあと、ペロりと唇を舐めた。
「もっかい。」
苦い。
帝統っぽい味だった。
ゴミ捨て場に降ってきた彼っぽい味。
つむぎにとって帝統と出会ったことは大事件だ。
でも、これからの事を考えればこんなこと、人生の中の大事件の五本指にも入らないと思う。
帝統と居ると、思いもよらないことが次々起きるから。
ゆめゆめ思わぬ未来が呼んでる。
つむぎはある曲の歌詞を思い出した。