第9章 荒野を歩け[帝統]
「…皿、洗う。」
「あ…お、ん。」
帝統はそれから、鍋の取り皿と、自分の茶碗を持って小規模なキッチンに立った。つむぎの茶碗は、置いていって。
洗い物をする背中に、つむぎは少しばかり不安になる。
「ねぇ……ほんきなの?」
「……」
「友達じゃ、ないの?」
「……」
返事はなかった。
多分、皿を洗ってる音で聞こえなかったんだ。
そうやって決着つけないと、多分泣いてしまう。
急に友達が、友達じゃなくなる可能性を、未だ受け止めきれない。
「ねぇ、帝統」
「帰る。」
「え、あ、待って」
きっちり皿洗いを終えた帝統は真っ直ぐ玄関に向かっていった。いつもよりドライで、いつもよりなんだか、キツい。
「待ってよ、友達。」
つむぎが嫌味ったらしくそんなこと言うと、帝統の足はピタリと止まった。
「もーお前ん家泊まんねぇわ。」
「あ、え?まあ、そう。」
当たり前のことなに偉そうに言ってんだ。今まで勝手に泊まってたくせに。というか、付き合ってもいない異性を泊めんのとか改めて考えると普通にやばいし。あれ、改めて考えて私相当ヤバい。
それがつむぎの中で言語化された気持ち。
つむぎの中はそれだけじゃなくて、言語化できない気持ちがぐつぐつ生まれた。
そこはかとなく、心が寒い。
「どこ行くの?」
「…ば…バイト。」
「バイト!?」
「賭場行くんにも元手がいるだろ。」
「ちゃんとしてる…!いや、ちゃんとしてないけども、」
まただ。
また知らない大人だ。
やっぱり心、寒い。
「じゃーな。」
「あ、うん。」
そう言うと帝統はつむぎの家を足早に去っていった。
帝統が居なくなった部屋はしんと静かで、つむぎは少しばかり動けなかった。
しばらくしてから自分の茶碗を手に取り、残ったご飯は炊飯器に戻し流し台に向かう。
既に洗い終わっていたご飯茶碗には、まだ汚れがついていた。きっと、帝統がいい加減な洗い方をしたからだ。
「まったく、いーかげんだよ……ばか。」
それからしばらく、帝統がつむぎの家に来ることは無かった。