第9章 荒野を歩け[帝統]
「ただいまぁ。」
「ただいまー!」
つむぎの部屋は、四畳半に小規模なキッチンとそれからトイレとお風呂がくっついてるだけで少し狭い。どうにかこうにかインテリアを工夫して広い風に見せているが、普通に狭い。
久しぶりに入るつむぎの狭い部屋に帝統はドキドキした。
「手洗いうがいすること!」
「おー!」
2人で手洗いうがいをして、それからつむぎは鍋の準備を始める。狭い台所に2人は邪魔だ、と手伝おうとした帝統はそうそうに追い出された。
台所で用意をするつむぎを居間から眺めると、帝統はまたギュンギュンした。落ち着かない帝統はソワソワとインテリアを弄る。
目覚まし時計を弄ってみてカチカチ。ブタの貯金箱を振ってみてジャラジャラ。本棚を漁ってみてペラペラ。
幻太郎の本難しそうだなぁ、なんて頭悪そうにひと通り本棚を漁った後、帝統はつむぎの数の少ないCDコーナーに手を伸ばす。
“空きっ腹に酒”
なんだよ悪い飲み方だな。すぐ酔いがまわっちまう。
“スチャダラパー”
パッパラパーみてぇな。
“ユニコーン”
あの角生えたやつな。
アーティストの名前を見ながらそんな頭悪いことを考えていると、なんだか見た事あるジャケット写真を見つけた。
黄色っぽくて、見知った3人が立っている。
どんなに頭悪くても、これはわかる。
「これ、俺らじゃねぇか!」
「帝統ーさっきからなにやっ…て……」
おたまを持ったままやって来たつむぎは、帝統の手の中のCDを見てガチりと固まった。それから徐々に顔が赤く染っていく。
「そ、れは、あー、あの、」
「俺らのCDー!」
嬉しそうに高々と掲げる帝統に、つむぎは声が出せなかった。恥ずかしくて堪らないってことだ。
「えと、帝統がさ、あの、それ、友だち、だからさ、そりゃ、あの、ね、だって別に、あの、そりゃー友だちとしてさ、とりあえず、っていうか、」
「つむぎー!!」
口をパクパク動かしてあっぷあっぷしているつむぎに、帝統は飛びつく。
「なんだよお前、すげぇ可愛い。」
「はっ!?くっ、つくな!」
ぎゃいのぎゃいの文句を言うつむぎを、帝統は愛おしいと思う。やっぱり好きだと、もう何度も何度も理解したことを、もう一度認識した。