第5章 カ タ チ
もし、本当に夢が現実になったらと思うと…
甲板の船縁に、両腕を投げ出すようにもたれ掛かる
ザザッと船にぶつかる波の音は、私の頭を想像の世界へと連れていった
…………とてもじゃないけど耐えられない。アイツが私以外の女と幸せそうにしてる顔なんか、絶対に見たくない…
あまりにも気が重たすぎて、このまま海に落ちそうだ
なんて、思った刹那
『わっ、!?』
真下の海に大きな影が出来て、私の襟首の辺りがぐいっと後方に引かれる
空中で太陽や青空を覆った大きな大きな影
それがなんなのか判別する前に、私の体は掃除したての甲板に叩きつけられた
「コタツ!!!」
コタツ、と呼ばれる影が私の上に覆い被さる
逆光で目がチカチカする中、捉えた2つの翡翠玉
私の足にふさりと筆のようなもので撫でられる感覚が来て、ようやく悟った
『…ねこ?』
黒い大きな影はネコのような顔立ちだが、虎のようにも見える。2つの翡翠玉は、この子の瞳だったのか
並んだ下弦の三日月が私に向けているのは、警戒心
「グルルル……ッ」
喉を鳴らして唸る彼と目を合わせた。私とお揃いの翡翠の瞳は次第に揺れ始める
「おい!コタツッ!チエから離れろ!!」
そこへエースを含む何人かが走ってきた。それでもコタツは引かない
そっと顔に手を添えれば、揺らいだ目は一瞬にして固まった
「…にゃーん」
そして可愛らしい鳴き声を上げながら、私の首元に擦り寄った
「!?」
「あの警戒心MAXなコタツが!」
「俺初対面であいつに噛まれそうになったのに…!」
どうやら、コタツは初対面の人に懐かないらしい。
でもこうやって傍に来てくれるってことは、多少なりとも心を許したってことだ。嬉しいな
『よしよし、いい子だね』
チエの優しい愛撫に、コタツはすっかり夢中になってしまったらしい。 主人のエースが何度呼んでも、見向きもしないのだから相当だ。
「コォータァーツゥッ!!お前の主人は俺だろーっ!!」
私とコタツを引き剥がすようにエースがコタツに掴みかかる
コタツはそれを嫌がるように、振りほどこうとする
両者どちらも譲らず、下に敷かれたチエはどうにも動けなくなってしまった