第8章 Pandora
ただ、まだ引っかかることはある。
じいちゃんから母の話を聞いた時、母は外部からやってきた人間に襲われたと言っていた。島の人間が内側に入れたのだろうか?
それにこの足枷。位置情報がわかっていればさも安心かのような扱いだ。私しか島に入れないにしても、見えもしない島にどうやって上陸するのか
そう考えると、内側から開ける以外の方法を知っている可能性も捨てきれない。
この力について、私も知っていることは少ないし海軍も伝承のような初代ルノウェ の逸話と、母アリエからの実験記録くらいしか知らないはずだ。だが、今確実に私たちが共通認識を持っていることは、私の体が能力の発動によって全自動的に回復するということだ。
つまり、身体だけでも価値がある。流刑だと判断するのは軽率だ
傾斜を登っていくと、本道に出たのか先程よりも幅の広い砂利道が出てきた。明らかに人工的に作られた道には森ほど草が茂っていなかった
その時、肩にじっととまっていたラルーが何かに反応を示した
ぴくりと羽を僅かに立て、細かく左右に視線を馳せる。私も乗じて同様に辺りを見るが、特に何も無い。すると、ラルーが小さな声で鳴いた
「きゅ、」
少し怯えたような、けれど明らかに進行方向を見据えてこの先に何かあるかのように首を前に伸ばす。ラルーの視線の先は恐らくこの坂道の峠だ。そこに行けば何かが見えるのかもしれない
重たく冷たい鎖を引きずりながら、砂利を踏み締める。坂道の地平線から少しずつ先の景色が現れてくる。
『…あれは、』
坂道の峠からは山肌に反って道が渦を巻くように作られ、下へと続く構造が見える。そしてその途中の木々に小屋のようなものが建てられているのが見えた。
もしかして、これは集落の形跡?
明らかに人工物であるものの、漂う空気はなんだか人の住んでいたものとも思えない。ラルーもそれを感じているのか、得体の知れない雰囲気に羽が逆立っている。しかし、全くの敵意や恐怖というものでもないようで、ただ警戒心が強まっているのかもしれない