第5章 カ タ チ
「こら、やめねェか2人とも!チエが困ってるだろう」
「邪魔するなデュース!これは俺とコタツの問題だ!」
「グルルッ…ガァッ」
なんで喧嘩になってるのか……
一人と一匹が取っ組み合いになって、唸り合う。どちらも獣のようで子供のようで、境がまるで無かった
エースも動物相手に大人気ないように思えるが……主人としてケジメをつけなければならないのか?
コタツが私と居たいならそれでいいのに
『私の上で喧嘩しないでくれ』
「わ、わりい」
「にゃーん」
それまで耳を貸さなかった1人と1匹が、ピタリと揃って静止した。起き上がる体制を取れば、あっさり私の身から両者引いてくれた
『コタツ借りてもいいか』
「えっ」
動物は好きだし、気分転換に癒しが欲しかったところ。
1人でいたら、またきっと考え込んでしまうし
『だめか?』
「別に、ダメじゃねェけど…」
エースは困った顔をして帽子に手をやる。
素直に「うん」とは言わないが特に引き止める理由を述べるでもなく、ハッキリしないまま曖昧な返事を繰り返すばかり
『じゃあ借りてくな』
「えっ、あ、…おう。」
…………はっきりしない人
何かあるなら言えばいいのに。何も無いのなら言わなきゃいいのに
なんだか、もやもやする
結局コタツは借りれたし、部屋に篭もる口実も出来た。
1人でいることを避けたい反面、エースのことも避けたい自分がいる。
きっと、最近の夢を鮮明に思い出してしまうからだ
そんな未来は来ないと、言って欲しいのかもしれない…
本当はエースを困らせたくないし、迷惑もかけたくない
無理に告白の返事を貰おうとか、私の事を意識して欲しいとかそんな女の子みたいな考え方じゃなくて……もっとこう…
『……難しいね、コタツ』
「にゃーん」
私の問いかけにコタツはひと鳴きするだけ。どんなに考え込んだって、コタツに相談したって妄想は現実にならない
『もしもの事なんて、考えたって仕方がないよね。今はがんばらなきゃ、おまえの主人に選んでもらえないもの』
自らに言い聞かせるような口振りで、コタツのしなやかな毛並みに顔を埋めた