第5章 カ タ チ
「ここが今日からお前の部屋な。必要なものは揃ってるはずだから」
『別に、医務室のままでも良かったんだが』
その方がデュースから色々話も聞けるし、包帯を変えるのも楽だし
「バカ!そのせいで厄介事になりやすいんだろうが」
『そうか?医務室なら必ず誰かかしらいるし、安全だ』
「…………はぁ、もういい」
しばらく私の顔をじっと覗くが、やがて不貞腐れたようにそっぽを向いた。大きな溜息も態とやっているのが見え見えだが、なぜそんなに落胆するのか分からない
効率的に考えたら、1人部屋にするよりマシだろうに
「……あそこは誰でも入れるだろ。」
『……ふっ』
「なっ、なんでまた笑うんだよッ」
いけない、いけない。また無意識に頬が緩んでいたみたいだ
エースの真意が多分だけれど、わかってしまった
個室になるということは、医務室に比べて容易に見物しに来られない場所、許可された者しか入ることの出来ない場所になる。
変な虫にお手付きされることも目をつけられることも少なくなる
そういうことでしょ?
だって、エースがそんな顔するんだもの。
少し、うれしくて期待してしまいそうになる
『……エースは、いいよ』
特別、と小さな声で付け足して俯く。恥ずかしくてむず痒くて思わず視線を逸らした
わたしはとっくの昔からエースを幼馴染だなんて思ってないんだから
ずっと、ずっと特別なんだから
それくらい、わかってよ
「お、おう」
なんて、ハッキリ言わなきゃ伝わらないんだろうけど
曖昧に頷く彼に、ハッキリして欲しい気持ちとこのまま有耶無耶なままにして欲しい気持ちが浮かび上がる
何となく、ただ傍に居る。
そんな昔の関係は、とっくに私が壊してた
私の我儘で、ここまで追いかけてきた
傍から見ればただのストーカーだ
今振り返れば、曖昧だった頃の関係が懐かしい
あの頃は何も心配せずとも、隣にエースがいた
でも今はやっと見つけられた
当たり前だった日常が、あんなにも特別だったなんて今更になって知った
あの時、私が曖昧な関係を壊さなければ
ずっと、綺麗な"思い出"として閉まっておけたんだろうけど……
生憎、そんなので満足出来る器じゃなかったみたい
私は、欲深くて、我儘だ。