第5章 カ タ チ
そこまで言葉が出てきて、ぐっと息を止めるように飲み込んだ
何、考えてるんだろう私
「あの時は、声も出やせんでしたよ。エース船長に手を引かれながら走ってきて、飛び乗るのかと思いきや、イスカはそのまま陸に残った。後ろには追っ手の海軍が迫っていただろうに…」
スカルの口振りから、スペード海賊団にとってもイスカは馴染みの存在に近かったらしい
毎日のように追い回し、真正面からぶつかってくる姿は正義感溢れる少年のようだったと言う。
エースが彼女を逃がしたのは、彼女のことを“良い奴”だと判断したからだそうだ。だから信じていた上司が、親の仇だと知った時もイスカを自分の船に連れていこうとしたのだと、
………まるで恋愛ドラマじゃないか、
エースはイスカさんを認めていたようだし、助けようとした。この間に何の感情もないなんてありえない。一時の同情心であるはずもない
もし、私が抱くような想いを2人が持っていたなら
私はどこの隙間にも入れやしないじゃないか
『……イスカさんのその後は知ってるか?』
「いいえ、どうなったかご存知で?」
『ああ、…釘打ちのイスカはもう本部には居ない。』
大物ルーキーを逃がし、一緒に逃亡しようとしたことで階級はかなり落とされた。
そして空席のイスカの座は、突然入隊してきた新人海兵のものになった
『……イスカさんは、地位も船も奪われて小さな島の駐屯地に飛ばされたよ』
「なら、無事にまだ海兵をやってんですねぃ!?」
『…っ』
純粋にイスカさんの無事を喜ぶスカルに、誠の言葉は引っ込んだ
……無事なんかじゃない。イスカさんの受けている仕打ちはむしろ生き地獄そのものだ
実力も地位も持ち、これからを期待されていたあの人は何もかもを失った
表向きは、町のための警備組織もしくは軍艦の整備や物資調達の拠点だが本部から飛ばされた人間が、そこで上手くやっている話を聞いたことがない
地方職でいいという人間は、戦いの最前線から退いた将校くらいで、誰もが昇格し、本部に務めたいと思っている。地方の人間にとって見れば本部から飛ばされてきた人間は都合のいいカモ。妬みの対象なのだ
イスカさんが海兵として無事に過ごせているとは到底思えなかった