第5章 カ タ チ
どうして、皆、エースの幼馴染と言うだけでこんなに良くしてくれるのか
立場だけ見れば私は海兵で、皆は海賊なのに。
「そりゃア、てめェ……気に入ったからだろう。エースの馴染みだからじゃねェ。チエ、お前が少なくとも海軍の腐った犬共とは違う、良い奴だってことを連中も分かってんのさ」
いつもとは違う私に気づいてか否か、
そう言ってくれる白ひげは、まるで本当の父親のように見えた
この人の言葉だけは、何かが違う気がする
『……そうか。……それこそ世も末だな』
力なく微笑んで見せれば、エースもつられて笑っていた
先程白ひげに受けた言葉をそっくりそのまま返すと、白ひげは口元に弧を描くだけでそれ以上何も言わなかった
何も言われなかったのが、妙に心地よくて、無言の肯定とでも言えばいいのか、
何も言わずとも受け入れられているような、そんな妙な安心感だ
「親父、やっぱり俺に責任を取らせてくれ。このままじゃ隊長として示しがつかねェ」
「……だから不問にすると言ったんだ、アホンダラァ…。どうしてもっつうなら、その小娘の面倒をしっかり見てやるこったァ」
だから小娘ではないと言っているのに
白ひげもエースもその事には全く触れない。そんなに子供っぽく見えるのか、私は。
「…わかった。恩に着る、オヤジ」
…………あぁ、そうか
「あぁ。用が済んだらさっさ戻って怪我ァ直せェ」
この船の人達が皆、親父と呼ぶ理由が
この妙な安心感がなんなのか
わかった。
白ひげが、そうなのだ。
私だけでなく、この船に乗る誰もがそう思っている
この人が、父親なのだと
知らない感情に名前がつくと、途端に不安も何も無くなるように、今までいなかったその空席が埋まっただけで、自分は少し満たされたような気がしたんだ
誰かに素直に認めて貰える嬉しさを、久しく忘れていた。
いつからか感じなくなった、子供のような気持ちが今はとても心地いい
伸び伸びと天に向かって育つ青木のように、まだ私は空に手を伸ばせるらしい。