第4章 クジラの背中
サボと知り合う、ずっと前に俺はお前と出会った
俺は赤ん坊の頃から山賊の元で育てられた
本当の血の繋がった親からではなく、脅され戸惑いながらも俺を育てる、複雑な想いを受けて育った俺は幼いながらに自分が普通ではないことに気づいていた。
自分には、親がいないこと。教わらずとも、無条件に愛し育ててくれる人が自分にはいないと知っていた。周りの大人を見ていれば、よく分かった。そして、自分がそれを享受してはいけない人間だということも。
…俺は鬼の血を引いているから
【ダダン、いるか】
それはガープが嵐の中、声を低くして連れてきた。
ガープが嵐の中、しかも終始叫ぶことなく来たのが皆のド肝を抜いたらしく、ついにはこの世との別れさえも覚悟したという
しかしガープの雨がっぱから出てきたのは、ダボダボの服を着た子供だった
ダダン達もすぐに悟った。
ダボダボに見える服から覗く手足は皮と骨しかなく、痩せこけた頬に光のない瞳。
"絶望"という言葉がぴったりだと思った。
これが、そうなのだと初めて言葉とイメージが合致した
5つの時、俺たちは出会った
俺とチエの共通点は、子供らしくない子供時代を送ってきた事だ
一般的に言えば、物心がついて自分の周りを見るようになる年頃だが、もう既に俺はこの世の底辺というものを味わっていた。今思えば、多分チエも同じだったと思う
だからといって互いに同情したりはしなかった。むしろ、自分よりも辛い人間なんかいないと、俺は思っていた
ガリガリに痩せたチエは、ダダンたちの作った飯を口にしなかった。警戒しているのか、なんなのか、チエは部屋の隅で自身を抱きしめるように、膝を折って丸まっていた
女が来たのが嬉しかったのか、それともチエが死んだら自分が捕まると脅されたことを気にしていたのか、ダダンはチエの面倒をよく見ていた
しかし、いくら匙を差し出しても、食事を傍において離れても食べない。
俺は言った
【なんでアイツ食べないんだ。嫌いなのか?】
食べ物を粗末にしたり、残りしたりするとダダンは怒る。山賊なのに、人としてそれなりにまともだったと思う
そんなダダンが、チエには怒らなかったのが不思議で仕方がなかったのだ