第4章 クジラの背中
甲板への階段を登っていけば、次第に声は近づいた
「戻ってどうする。彼処にそこまでの物があるのかァ?」
親父の声だ
戻る…?一体誰と話してんだ
『私にはやらなくちゃならない仕事がある。』
これは、チエの声か!
よかった、チエも無事だったんだな
俺のせいで巻き込んじまった。
俺が構うからティーチたちに目をつけられたのかもしれない
ティーチは本当に野蛮なやつだ。男だろうが女だろうが容赦がねェ。手加減って言葉を知らねェんだ
扉を開ければ、そこはクルーたちで囲まれた野次馬の中だった
「す、すまねェが、ちょっと退いてくれ」
人の波を掻き分けて先頭に辿り着くと、丁度チエの真後ろに位置していた。親父は俺に気づいてか否か、こう言った
「この件に関しちゃァ、黙って傍観していた俺の責任でもある。エースの馴染みと聞いて、お前をなんの疑いもなく客分にした。他の息子共にとって不安因子にしちまった、俺の責任だ」
そんな、親父が責任感じることじゃねェよ
俺のわがままを許してくれただけじゃねェか!
親父の責任じゃない、これは俺のだ
「ただ…」
『?』
皆が次の言葉待って、唾を飲み込んだ。
「俺がお前のことを気に入ったのも事実だ。敵船にたった一人で乗り込み、この俺に啖呵を切ってみせた!だから俺はお前のことを客分にしたんだ」
ここからはチエの表情は見えない。ただ、握りしめられていた拳が、ほんの少し力を緩めたのを俺は見逃さなかった
『…私には、なんの能力もない。悪魔の実も食べていなければ六式も半端にしか扱えない、ただの一般兵だ。そんな私を気に入ってくれてありがとう』
「海兵に礼を言われるなんざァ…世も末だな」
『私に海兵としてのプライドと言うやつはない。どっちだっていいんだ、海賊でも海軍でも』
どこかスッキリとしたように言うチエの背中は、昔の小さなアイツを思い出させる
昔のチエは、何にも囚われず、縛られることも無く日々を過ごしていた。チエが1番自由だった
きっと俺は、羨ましかったんだ
俺達は物心着く頃から一緒に生活してたが、仲良くなったのはルフィが来てからだ
それまで俺は誰ともつるまずに一人で生きてきた