第4章 クジラの背中
普段何人か人が見える程度の船縁に、エースを除く全船員が並ぶ。そして中央のマストを背に座るのは、この船の頭白ひげ
私はその正面に膝をついて、座らされていた
つい今しがた、ティーチから白ひげ達に説明があった。
私を手違いで拘束し、拷問にかけたこと、私が能力を隠している可能性があること……この船に置くのは危険だという旨を白ひげに伝えた
横から反論したとして、一体誰が私を庇うというのか。
『……取引の内容は覚えているか』
白ひげにだけでいい。
真意をわかってくれるのなら、いくらでも言ってやる
「もちろんだ」
細められた目が私を突き刺した。いつもの思考の読めない目ではなく、私を敵かどうか品定めするような、冷たい目だ
『…本当は、私にお前達の情報を売れるほどの信用も、権力もない。』
周囲がざわめく。中にはハッタリだと疑う声も上がった
『このまま私が無事海軍に戻れたとしたら、私は海賊のスパイとして見られる可能性が高い。この先軍で私の居場所はなくなるかもしれない』
何故なら、これまで海賊に生かして返された海兵なんていないからだ
『……それでも私は軍に戻る』
白ひげは私から目を逸らさずに話を聞いていた。野次馬の声に耳を貸さず、己の判断を下そうとしている
取引と言って、私は大きな賭けに出た。今その真意と賭けの裏にある空っぽの力を全てさらけ出し、自分の利用価値を最低まで叩き落とした
『信用して欲しいとは言わない。牢屋に入れられたって、鎖に繋がれたっていい。ただもう一度海軍に戻れるなら、それでいいんだ』
「……戻ってどうする。彼処にそこまでの物があるのかァ?」
白ひげの地響きのような低い声が体に振動した。
居場所も、地位も、信頼も失ったとして、それでも海軍でなければならない理由。
『私にはやらなくちゃならない仕事がある。』
それはただ一つ、
エースの自由を守るためだ
エースが海に落ちた時、目が覚めるまで考えた
私がエースを捕まえるということは、私のものにするのとイコールではない。
逮捕が意味するのは死。エースの場合間違いなく、処刑される
だってエースは、海賊王の息子だから