第4章 クジラの背中
俺が起きたのは、次の日の昼前だった
一度目を覚ましたが、その後またすぐ眠りについて丸一日寝てしまった
医務室には誰もいなくて、丁度昼休憩に入るナース達が入れ替わったぐらいだった。
ふと、右手にある感覚を覚えて目を向ける
「あ」
握られていたのは翡翠色のペンダント。
……チエのものだ
あの時無意識に動く体が掴んだそれを見て、昔街で見かけた高級なエメラルドの宝石を思い出した
ルフィとサボと3人で肩車をして大人の振りをして出かけたんだっけか
懐かしい。
あの時、大きなエメラルドが嵌め込まれたペンダントを見て真っ先にチエが浮かんだんだ。盗むことは簡単だった。だけどそれじゃチエは喜ばない。かと言って買う金もない。
あの時ほど、自分が子供であることを惨めに思ったことは無い
ただ、チエの喜ぶ顔が見たかっただけなんだ。
もう一度掌の上のペンダントに目を向けると、あの時のような宝石特有の煌めきはなく、ただ澄んだ翡翠色が何処までも奥まで続いているようだった
吸い込まれるような、不思議な色。本当にチエの瞳そっくりだ
「ん?これ…」
今まで色んなお宝を手にしてきた。財宝もある程度見る目はついていると思う。俺にはそこそこの知識しかないが、これは本当に宝石なのだろうか?
「よく見たらガラス玉じゃねーか?」
ただのガラスではないことは確かなのだが、宝石と言われるとまた少し違う感じがする
チエは一体これを誰に貰ったんだろう
海水で濡れた服は医務室の一角に干してあり、俺は病院服を着せられていたので部屋に戻って着替えを取りに行く
不思議なことに廊下では誰とも会わず、やけに静かだった。上の階に上がってもそれは同じだった
「…変だな、客でも来てんのか?」
自室に戻り、着替えを済ませるとなんとなく持ってきたペンダントをポケットに突っ込んで部屋を出た