第4章 クジラの背中
『………、、』
ゆっくりと意識は覚醒した。
首だけ動かして辺りを見ると、頬や頭がガンガンと内側から痛みを受ける
顰めた視界を埋めたのは、黄色のカーテン。天井や消毒液の匂いでここがいつも寝泊まりしている医務室だと気づく。けれど普段使っているベッドではない
カーテンを開ければ、普段使っているベッドとデュースの使っているデスクや医薬品の戸棚といったいつもの風景が広がっていた
しかし普段とは少し違うのが1つ
「目が覚めたのか」
椅子に腰掛けたデュースが、回転式の椅子をぐるりと回してこちらを振り返る
『エースは…』
「さっき目を覚ましが、またすぐに寝ちまった」
立てられた親指が指すのは、私が普段使っているベッドの上
布団もかけずに、規則的な寝息を立てて眠る姿を見て心の底から安堵した
「チエももう少し休め。昼飯は後で持ってこさせるから」
時計を見ればまだ1時前だった。
寿命が縮まるほどの出来事があったのに、また一日の半分くらいしか経っていないなんて
『…そうだな』
まだ体は重たいし、気分も何だかだるい。もう一眠りさせてもらおう
けれどその前に一度、ちゃんと自分の手でエースがそこにいることを確かめたかった。
裸足のまま側まで行って、昔から変わらない寝顔に手を添える
規則的に動く肌と、小指の辺りに感じる微かな脈、そして何よりあたたかい体温
触れて確かめると、何だかほっと出来て眠気が増してくる
『ご飯は夕食だけとることにする。起きてこなかったらそのまま寝かしておいてくれ』
「わかった」
本来ならしっかり栄養を取らねばならないところだが、デュースは肩を竦めただけでとやかく言わなかった
とにかく眠い。それが諸に出ていたんだろう
察しのいい彼は、また私を休ませてくれた
……なかなか眠れなかった。
どれだけ安心感を覚えても、傍に居ても、エースを失いそうになったあの恐怖感がまだ鮮明に残っているからだ
目を瞑ると脳裏に浮かんでしまう。
もし、あのままエースが息を吹き返さなかったら…
一体私はどうなっていたんだろう