第4章 クジラの背中
「チエ!エース!!」
『はぁ──ッ!はぁっ!いっ、息、してないッ!!』
一気に空気を吸い込む音の次に飛び込んだのは衝撃の一言
『エースを助けてっ!!』
「俺が連れてくよい!戻ってこれるかっ」
『追いつく!!』
船はゆっくりとだが確実に進んでいる。だが今はエースを船に運ぶのが最優先
チエには悪いが人命を優先させてもらう
マルコがエースの腕をつかみ、浮上するとチエはくたりと浮き輪にもたれかかった
しかしそれもつかの間、船に追いつくべくチエは泳ぎ出した
「ドクターを呼べよい!」
船の中央の甲板にエースを寝かせると、直ぐに大声で指示する。
船尾にいたクルー達も駆けつけて、皆がエースを囲った
「お、おいお前…っ」
『どいてッ』
ドクターよりも先に、泳いでいたはずのチエがびしょ濡れのまま駆けつけてきた。クルー達をかき分けて、エースの元に雪崩込むように膝を着いた
『エースッ、エースッ!!』
名前を強く呼んでも反応はない
『っ、気道確保!』
顎に手を当て、上に持ち上げるようにして気道を確保する。すぐさま首筋に手を、胸に耳を当てて脈を確認した
弱いけど、脈はある……!
人命救助なら、海軍で嫌という程やった。落ち着いて。しっかり手順通りにやるんだ。
濡れた髪を後ろにかき上げるとエースの鼻をつまんで、思いっきり息を吸った。
「チエ?」
そしてそのままエースの口に吹き込んだ。
「「「!!!」」」
全力で泳いで、体力はかなり消耗されたはずなのに、疲れが見えない。疲れを感じさせない程、チエは今必死なのか。
ただひたすら、エースのために動いているというのか
『エース…ッ』
呼吸の隙間に、何度も何度もエースの名を呼んだ
それでも頑なにエースは瞳を閉じたままだ
『どうしてっ…脈はあるのに…!!』
周りは見守ることしか出来ない
チエの悲痛な声が、必死さを嫌でも伝えた
『頼む、お願いだ……っ、……もうこれ以上誰も…私を置いていかないでっ』
エースの胸の上に、祈るようにして額をくっつけたその時だった
「ぅゲホッゴホッ…!!」
「「「『ッ!!!』」」」