第4章 クジラの背中
小さな水飛沫の後に続いて、水面にぶつかる音と共にさっきよりも大きな水飛沫が上がる
『エースッ!!』
ダメだ、アイツは能力者じゃないか!!
なんで…ッ!!
「驚いたぜ、まさか自分から海にすっ飛んでいくなん……て……っ!?」
ティーチの横を掠めたのは、黒い糸
いや、髪だ。女の長い髪だ
船縁に駆けつけて身を乗り出せば、3つ目の水飛沫が上がったところだった
まさかと思い、後ろを振り返るとそこにあったはずのチエの姿がない
あるのはぶつりと切れた大縄と、腰を抜かした船員1人だけだった
「おい、コイツはどこへ行った!!」
「うっ、海に、飛び込んで……っ」
「あんなにキツく縛ってたんだ、簡単に抜けられやしねぇだろッ!」
怒りに身を任せてティーチはマストに駆けた。落ちている縄にナイフで切った傷も焼き切った跡もない
(一体どうやって……っ!?)
「なんの騒ぎだよい!!」
大きな鳥の影と共に降り立ったのは、同じく任務に出ていたマルコだった。
「まっ、マルコ隊長!!エースが海に!!」
「エースが??」
白ひげと勝負していた頃は、頻繁にある事で皆もう慣れていたのだが、今では勝負を挑むことはなくなったし、お陰でエースが海に落ちることも無くなった。
それにしても、この焦り様は異様だとマルコは感じた。
今日はほとんどの奴らが出払っていて、魚人のウォレスもいない
「誰も助けに行ってねぇのか!」
「そ、それが……」
口篭るクルーを急かせば、渋々その口は開かれた
「あの女海兵が飛び込んで……」
「チエが?!」
まだ怪我も治っていないだろうに、大人の男を抱えて海から上がってこれるのか?
「チッ」
マルコは走って浮き輪を取ってくると、泡立つ海に向かって投げた。そして自身を不死鳥の姿に変えると浮き輪の真上まで降りていった
騒ぎを聞きつけたクルー達が、船縁にぞろぞろと集まってその様子を見ていた。
……なかなか2人は上がってこない
(…今からでも間に合うか…っ)
マルコが応援を呼ぼうと船の方を振り返ったとき、ザバリと勢いよく海を突き上げる音がした