第4章 クジラの背中
……俺はあんなに綺麗な宝石をあげたことは1度もない。
「こんなにいい宝石を贈くれるのは、金持ちの男ぐれェだろうよォ!エース隊長も、そう思うだろォ」
チエには、そういう贈り物をしてくれる立派な男がいて、ソイツに貰ったものを大事に持ってる……ティーチに取られて抵抗している、…てことか?
そうなのか?チエ、、
ティーチの指にぶら下がって左右に揺れるそれをじっと見つめた
翡翠色の宝石は太陽の光を反射してキラキラと輝く。チエの目の色とお揃いだ。
……きっとあれを贈った奴はチエのことをよくわかっていて、チエのことを大事に想っていて、チエのことを幸せにしてやれる奴なんだろう
それだけ海に生きる俺との差があると、揺れるペンダントが指し示しているようにも思えた
惨めながらも、それが忌々しくて悔しくて仕方がない
「………早く返してやれ」
嘘だ
本当は返したくない
チエがここから見えなくてよかった。ペンダントを受け取ってほっとする顔を見なくて済むから
「ほらよ」
俺の言葉に、素直にティーチは応じる姿勢を見せた。
『「!?」』
しかしペンダントの軌道は大きくはずれ、左右の揺れは収まるどころか勢い余って宙へ投げ出された
(あれ…?)
『……エース!!!』
(何やってんだ、俺)
目の前に広がるのは真っ青な海
手を伸ばした先にはチエのペンダントと、見慣れた炎
…このまま焼き切ってしまいたいのに、俺はチエのペンダントを捕まえようとしてる
もしこのまま、無くしてしまったら……
きっとチエは悲しむだろう。代わりになるものをやってあげることも出来ず、またチエに我慢させるんだろう
そんなことは、させたくない
そうストンと、心に落ち着いた。チエの大事なものを、守りたいと思う気持ちが体に張り付いた
だから俺は、ただ落ちていくペンダントだけを見つめて只管手を伸ばした