第4章 クジラの背中
ぐっと、唇を噛み締めて悠々として私を眺める大男を睨みあげる
こんなことしてなんのつもりだ
私のことが気に入らないから、直接手を出しに来たのか?
親父の命令は絶対、だと鷹を括っていた私のミスだ
「ムカつく女だ。顔はよしてやろうと思ったんだがなァ」
男の言葉で、攻撃は2箇所に分かれた
骨折した脇腹あたりと、顔面を含む頭部
下ろしていた髪をぐしっと鷲掴みにされ、上に強制的に引かれる
刹那、視界を埋める黒い物体
残像を残しながら、私の顔の左側に強い衝撃波が走る
『…ッ』
それでも攻撃は止まらなかった。
何十分、いや何時間?
かなりの時間が経ったようにも思える
辛うじて動く首だけで、全攻撃を受けることは無かったけれど頭がグラつく。新しく攻撃を受けた箇所ががジンジンと痛んで、それより前の傷はもう麻痺して分からなかった
「ゼハハハッ!!こりゃあヒデェ顔だ」
お前らがやったくせに
「ちっ、まだんな目が出来るのか」
ぐっと太い指が、チエの首にくい込んだ
そのまま持ち上げるように、力の向きは上を向いた
「ん?」
その時男の目に写ったのは、エメラルドの光
「おおっ!?おめぇ、中々いいモン持ってんじゃねぇか」
男がチエの首から引きちぎったのは、武器師リョウジュに作ってもらったシーグラスのペンダントだった
『っ!!…かえ、せッ』
噛み付く勢いで、身を乗り出すその直前で前に突き出されたチエの頭は、男によってマストに叩きつけられる
『うあ…っ』
「よっぽど大事なモンらしいな」
品定めするように、ペンダントを目の高さまで持ち上げた、その時だった
「何してやがる」
低く、唸るような声彼の声が聞こえた