第4章 クジラの背中
……油断した
完全に自分のミスだ
「勿体ねぇくらい美人だなァ」
「今ここで喰っちまうってのもアリだよなぁ!」
頭痛薬を貰って、軽い朝食と水を貰おうと食堂へ向かう途中、突然背後から首後ろを殴られ気絶した
気づけば船後方のマストに縛られ、5、6人大柄な男達に囲まれていた。
綱引きでもするのか、普通のロープを三つ編みにあんだ太い縄でぐるぐる巻きにきつく縛られる。包帯の取れた腕に縄のささくれが刺さって痛い
「ケッ、澄ましてやがる」
ずん、と私を囲むどの男よりも大きな、熊のような男が現れる。チェリーパイをむしゃりむしゃりと無造作に口に運んだ不潔感漂うこの男
確か、エースの隊の部下で……
名前は……
『…………誰だお前』
さほど額が高い海賊でもなく、この船に乗っていながら今の今まで知らなかった……低級と同レベルかと思ったが、あの後ろからの攻撃、そこいらの低級と同じなんかじゃない
じいさんに鍛えられた分、自分のタフさと体術には多少自信がある。そんな私を一撃で気絶させられるのは、普通の手刀や鈍器では無理だ
……覇気か
「エース隊長なら、ついさっき任務に行ったばかりだ」
口の周りに食べかすを付けたまま、豪快に口を開けていう。ニタリと笑うその顔はお世辞にも良いものとは言えなくて
『……私をどうするつもりだ。一応ここの客として乗っているんだが』
「んなこたァ、関係ねェ。俺達は海賊だ!ゼハハハッ」
やれ、と周りの男達に目線で伝えると、同じように気持ちの悪い笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる
「おらよっ!」
ゆらり、と体が揺れたかと思えばゆっくりと近づいてきた男が変速してギュインと拳を鳴らす。派手なモーションだ
それに続いてロープの上から、蹴りやらパンチやら何やらと攻撃の雨が降り出した
『うっ、、』
この位の攻撃、普段なら痛くも痒くもない……けれど、今は怪我を負っていて、しかもまだ治っていない
「ここだな」
ぐへへっと潰れたねずみのような笑い声で、怪我の箇所を集中的に攻撃してくる
『……っ、、』
ダメだ、…耐えるしかない……っ
ロープはきつくて抜け出せない
攻撃は縛られて交わせない
でも、屈する訳にはいかない。