第4章 クジラの背中
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(……頭、いた)
最初に感じたのはズキリとした重い痛み。
次に感じたのは違和感。
(ここ……医務室じゃない)
消毒液の匂いも、医療器具の機械音もない。
聞こえるのは豪快な鼾だけ
鼾?
ごろんと半回転してみると、ベッドの縁からコクコクと動く黒い頭が見えた
まだ朝ではない。薄らの光るランプは今にも消えそうで、消し忘れたのかそれともまだ付けてから時間がさほど経って居ないのか、とにかく暗い部屋では、とても頼れるような光ではなかった。
目を凝らして、ようやくその揺れる頭がエースだと気づく
(どうして、エースが…ここに……)
手を伸ばしたくても身体が重たくて伸ばせない。意識だけがここにあるみたいで変な感じがした
(寝返りは打てるのに、手も声も届かない)
ああ、夜だから
夜は暗くて、足が竦んで動けなくなるから
もうこれ以上進めなくなってしまうから
苦手だ
真っ黒なカプセルに閉じ込められたみたいに、動けなくなって見えなくなる。先が見えないと怖くなって動けない。光がないと不安で動けない
(夜は、エースが一緒じゃなきゃ……)
「んん……」
エースの声に、分散されていた意識が再び集まると私の手はエースの頭を撫でていた
ちゃんと、届いてる。動いてる
エースがそばに居るから、大丈夫だった
ただぼんやりと、そんな安心感を覚える
「……ぁ…ふぁあ」
すると、コクコク揺れていた頭が天井を仰ぐように上を向いて、その両腕も同じように伸びた
「んぁ、…起きたのか?」
エースの頭に手を置いたままでいると、ゆっくり振り返った。まだ寝起きの眠そうな目と私の目が会う
『…どして、ここに…?』
ここはどこか懐かしい。
あの山賊の家のようにボロくはないし、隙間風も入ってきていないけれど、何だか懐かしい
「お前、酒飲まされて、寝ちまったから……医務室も、ちょっと立て込んでて、…………他に置いておけねェから」
言い訳のように聞こえるのは、きっと本人がバツの悪い思いでいるからだろう
そうか、あれはお酒だったのか…
道理でまだ頭が上手く働かないわけだ
だって、全然私気にしてない。
むしろエースがここにいてくれて、ほっとしてる