第4章 クジラの背中
「お前も浮かばれねェなあ」
しみじみとエースの肩に手をついて追加の飲み物をテーブルに置く
「そんなお前にささやかなプレゼント」
サッチの声に何かと思い、食事から視線をあげると正面にいるのはチエ
確かにサッチの視線の先にはチエがいる。でも何かがおかしい
「で、チエはその時どうしたんだ?」
『私?大人しく畑に行ったわよ。だってエースとサボがあっちに行けって押すんだもの』
「そりゃあ、災難だったよい」
イゾウとマルコに挟まれて、グラスを手にしながらどんどん話し出す
口調もいつもの堅苦しいものではなく、昔の女の子の頃のもの。チエの頬には薄ら朱色が増してきた
イゾウとマルコが会話の隙に、薄いオレンジ色の液体を注ぐ。それをチエも会話の間に少しずつ飲む
ヤバイ、
そう直感的に感じ取った時、正に今自分の追加された飲み物はなんだったろうかと思い直した。
食事の合間に一緒に俺が飲んでいたものは何だ?もし今チエも同じものを飲んでいるのだとしたら?
「あ、悪趣味かよオメーら」
チエを潰れさせる気か
「だって気になるだろ?真面目そうなチエが酔ったらどうなるのか」
ハルタの含みのある笑みと言葉に思わずその姿を想像してしまう
艶めかしい、女のチエを。
「…………っ」
……ダメだ、やめろ俺。
チエはそれを望んでねェ
「イゾウ、マルコ、その辺にしとけよ」
声をかけるも、2人はニコニコと笑みを浮かべてこちらを見つめる。悪い大人の笑みだ…
「「もう手遅れだ」よい」
二人の間で両手にグラスを持ち、ちまちまとアルコールを口に含むチエ。ぼやーっとした表情からもう既に出来上がっていることを察する
(くそ、マルコ達の野郎……無理に飲ませてねェだろうな)
「……っ、チエ!もうそれ以上飲むな」
身を乗り出すように立ち上がり、忠告してやるがチエの耳には入っておらず、ぽけーっとした顔だけが俺に向けられる
『…ねむい』
…飲むと眠くなるタチらしい
隊長たちはこれを知ってか否か…
こんな状態のチエを俺に任せて、どうこうさせようって腹なのか?