第4章 クジラの背中
「んや、怒ってるよ」
口に残った最後の一口をごくんと飲み込み、そう言い切った
『なっ、なん』
「こう言うとムキになる」
まるで私の扱いに慣れているかのように、平然とマルコたちに解説する。図星が重なり、さらに何も言えなくなると「ほらな」と言って笑った
『……別に、怒ってない。可笑しな事を言うな』
百歩譲って私が怒っていると認めたとして、
それで空気を悪くして終わり。もしくは気を使わせて、結局私とエースはイガイガしたままご飯を食べて解散する
取り繕ってでも、それを回避したかった
でも、そこまで考えが及ばぬまま口に出すエースには少し腹が立っている。このまま大人な対応で引き下がるのは、何だか理不尽な気がした
「あっ!!! それ俺が狙ってた肉ッ!」
ので、囁かな仕返し
「だッ!その春巻きも!」
ぱくり、ぱくりと口に運ぶ
エースの食べたそうなものなど承知済みだ
「ああッ、俺のエビフライ…っ」
エースのフォークが届く前に私のが獲物を突き刺して、またひとつ口の中へ頬張る
「ほらやっぱり怒ってんじゃねェかッ!!!」
『怒ってない。』
ダンっとテーブルに不満をぶつけるエースと、何食わぬ顔で口元をナプキンで拭うチエ。その2人のやり取りを蚊帳の外となった隊長達が見つめていた
(怒っているというより、)
(…拗ねてるに近いな)
(ていうかガキの喧嘩か、これは)
(もしくは痴話喧嘩か…)
この2人のやり取りを見ていれば離れた時間や互いの変化よりも、一緒に過ごした時間の方が長くて染み付いたものなのだと、改めて理解できた
「まぁまぁ、お代わりならすぐに取ってきてやるよ」
「お前らに喧嘩させるためにここに集まってるんじゃないんだよい」
「そーそー。2人だけで勝手に話進めるなよな」
隊長たちの仲裁があろうと、この2人はお構い無し。次の料理が運ばれてきた途端、エースが皿ごと齧り付く勢いで食らいつく
それを見たチエもムキになって、他の料理に手を出す
ここはいつから弱肉強食のサバイバル状態になったのだろうか