第4章 クジラの背中
「動物好きは相変わらずらしいな」
もふもふするなと言ったのも、きっとデュースから聞いて駆けつけたからなんだろう
『悪い?』
「ただの動物だけならいいのにな、それ」
エースの指すそれがよく分からず首を傾げる
「この天性のスケコマシめ」
『いたっ』
ビシリと額に指を弾かれ、思わずそこを片手で摩った
天性のスケコマシって…一体なんのことか
スケコマシならエースもだと思うけれど。
この医務室のナース達から結構人気のようだし
今だって、隣接した休憩スペースからこっちを覗き見ている。多分、入口の向こうではさっき出ていった彼らがいるのかもしれないけれど
『……そろそろ戻った方がいいんじゃないの』
見られていると思うと、何だか素直に話せる気がしなくなってきた。私のあの仮面は、ここの隊長達によって剥がされかけたりもしたけれど、本来見に染み付きつつある代物だ
意識すれば自然と口調も元にもどった。
エースの前であの話し方は、ほんの少し違和感があるから素の方と混ざってしまう。それは余計に変な感じがした
「そう、だな…」
エースも視線に気が付きつつ、その腰をあげることを少し躊躇う。
多分ここに来て、1番自然な会話をしたと自分でも思う。もしエースもそう思っているのなら、躊躇いの理由は恐らく仲の良かった昔を思い出したからだ。
お互いにたった1年と数ヶ月離れただけで、分からないことが沢山増えて、ずっと昔から知っているのにまるで最近知り合った人のような曖昧な距離感を感じる
けれどこの数分間だけは、何も無かったように思えたんだ
『………今度はゆっくり話せるといいね』
頭ではずっと一緒に居られないとわかっていても、心が一時でも離れることを惜しく思う。
エースもそう思っていてくれたらいいと、片隅で期待した
「今日の晩飯!……一緒に、食うか…?」
食いつくように前のめにりなって、言葉を必死に紡ぎ出す。突然の誘いにエースの言葉を理解するのでこちらも必死だった
晩飯…、、一緒に?
食べる……
『っ!!』
え、いいの?
食べたい
一緒にって、2人で?
でも周りの人達が…
けど、、、
『エ、エースが、いいなら』
葛藤の末に出てきたのは了承の意だった。