第4章 クジラの背中
不敵に押さえつけた腕を押し返しながら微笑んでみせた
その瞳に迷いはない。1度決めたらテコでも動かないあの目だ
後悔させてあげる、か……
「……ははっ、はははっ!」
一瞬にしてぽかんと口を開ける。さっきまでの強い目はまんまるに見開かれる
「俺の負けだ」
『え』
お前が俺を追いかけると言うなら、俺はどこまでも逃げてやろう。いつか立場も強さも、この身に流れる血さえも関係ない自由な地でお前と一緒になれるように
「俺を捕まえてみろ」
俺もお前も、誰にも縛られないくらい強くなってこの自由な海のもっと先で。
『……うん。捕まえる、絶対に』
目を見い開いたまま必死に頷いてみせる。どこか嬉しそうなその顔をみて、今までもやもやしていた気分が満たされたような感じがした
色んなやつに振り回されて、顔色変えずに対応するチエを遠くに感じていた。でも今は、俺の知っているチエだ
掴んだ手首を引いて起き上がらせると、その隣に腰かける。こうやって隣に座ることも随分と懐かしく感じる。
『……私、ちゃんと強くなるから。だから…』
「わかってる。強くなって追いついてこい」
俺は俺の目的のために進む。チエのことを待ってやることは出来ない。けれどそれでも俺を追うと言うなら、追いついてこい。自分の力で
「……無茶はするなよ」
『それは…約束できないかも』
どこか無鉄砲で無謀な一面を持つチエだから頑張りすぎそうで心配になる。今だってまだ怪我が治って居ないのにトレーニングに行こうとしていたと、デュースのやつから聞いた
それに、初めデュースが俺を呼びつけた理由は、"マルコ隊長がチエに襲われてる"って話だったし
「無闇矢鱈にもふもふすんな」
『…………それも』
「これは守れ」
『……はい』
チエは時折頑固だが、本来物分りはいいのだ。昔から忠告は親身に受け止めるタチだが、動物には目がない
目を離した隙にすぐ触ろうとする。そしてとても不思議なことに、どんな猛獣もチエの前では甘えた子犬のように懐くのだ