第4章 クジラの背中
「はっはっは!あのマルコが照れてやがる!」
「チエは意外と図々しいんだな」
サッチもイゾウも笑って傍観し、誰も私のもふもふ天国を邪魔する者は居ない
わしゃわしゃと撫でまくって、その体に顔を埋める
否、埋めようとした
『あっ』
「コラ」
取り上げたのはサッチでもイゾウでも、ましてやデュースでも無い
「「「エース」」」
明らかに不機嫌な顔をしたエースがそこに立っていた。
その少し後ろにいるデュースは少し息を切らしている。もしかしてエースのことを呼んできたのか?
「俺グッジョブ」
そんな彼と視線が合えば、親指をおっ立ててニッと笑った
全然グッジョブじゃない。絶対にグッジョブなんかじゃない、この状況
だって、まだ
『もふもふし』
「ダメだ」
即答。しかも食い気味に否定
エースは私が動物好きってわかっているから、今まで止めたことなんてなかったし、ましてやこんなに不機嫌な顔をするなんて
「サッチ、マルコ頼む」
「仕方ねーな」
「ここはエースに任せるとしよう。さ、若先生も」
サッチとイゾウが退散の意思を見せる。エースと私だけを置いて部屋を出るつもりか
『あー…もふもふ…』
あのもふもふが行ってしまうのはとてつもなく惜しい。もう居ないその青い羽を追って扉に向かって手を伸ばすが、エースによって手首を掴まれる
「……簡単に押し倒されてんなよな」
『え?』
扉から視線を戻せば、先程までの不機嫌さは薄れて私の掴んだ手首を見ている
「怪我だってまだ治ってないくせに、無理すんな」
私は寝転んだまま、ベッドの脇に立つエースを見上げる
『……別に、平気』
怪我は治すことが最優先。でも多少の痛みなら普段の鍛錬に支障はない。体が鈍るのは私にとって良くない。少しでも動かしていたい
だから別に無理してバリバリやろうなんて思ってないし
「っ、お前自分が女だってちゃんと自覚しろよ」
でもエースは違った。
『…ほら、そうやって"女だから"って…ッ!』
「女だろ」
ぐっと握られた手首に力が入ってベッドのシーツに押し付けられる。いつの間にかエースもベッドに膝をついて私に覆い被さるように、顔の横に手をついた
「……お前は女だよ、ちゃんと」