第4章 クジラの背中
父がある時家に帰らなくなった。元々何日か家を空けることはあっても1ヶ月、2ヶ月と帰ってこない日はなかった
あの人が持ってくる無けなしのパンくずも、くすねたリンゴも何も無い。ただ水とゴミ箱から漁った皮を齧って、父親とも呼べないクズ男を待ち続けた
でも父の代わりにやってきたのは、真っ白なスーツに身を包んだガープだった
父は海軍に捕まっていた。
行き場のない私を、ガープは秘密裏に匿い山賊の元へ預けたのだ
『私の話しはもういいだろ』
「えーー、もう?」
「俺はもう少し聞きたいけどな、アンタのこと」
口元だけ笑みを浮かべた妖しい顔。きっとそうやって何人もの女を落としてきたんだろうな
私には興味が無い話だけれど
というか、私はデュースにエースのことを聞きたかったのであって私の過去を話したいわけでは無い。
『そろそろトレーニン』
「ダメだ」
『でももう元』
「気なわけないだろう。マルコ隊長からも言ってやってください!チエのやつ止めてもトレーニングすると言って聞かないんです」
クソ、このまま逃げれると思ったのに
不満を全面に表してマルコの方を見れば、おなじくジト目でこちらを見つめる青い鳥。はぁと溜息を着いたかと思うと、とてとてとこちらに向かってくる
『え、ちょ』
私の足に乗り、そのままで腹に足をかける。そのまま登ろうとするものだから思わず仰け反る
緩くなったチエの斜面をぴょんぴょんと跳ねて登れば、あっという間にチエをベッドに寝かせることが出来た
「トレーニングは場合によっちゃ禁止するよい。客人とはいえ、お前に武器は持たせることはできないよい」
急に真面目なトーンで降りかかる現実。確かに海兵である以上、この船の人たちを殺さないとは限らないし、武器を与えなくとも六式を使えば簡単に人は死ぬ
私にそこまでの技量はまだないんだがな。警戒されるのは仕方が無いことか
『……わかった。大人しくする』
私の鳩尾の少し下あたりに立って、見下ろすマルコにそう返事する。でも私もタダでは引くつもりは無い
「わっ、何してんだよい!」
『セクハラ』
後ろからマルコの青くてふわふわな体を抱き込む
『トレーニングは我慢する。だから退屈凌ぎに触らせてくれ』