第4章 クジラの背中
敵だ客だ、なんだと言って私の安定した場所はなかったけれど、隊長たちや船員か少しずつ話しかけてくるようになった
私は別に海賊を恨んで海兵になったわけでも、悪を根絶やしにしたいとかそういう正義感でなったわけでもなかった。だからなのか、話すことになんの疑問も嫌悪も感じなかった
「お代わりいるか?」
『頂こう』
カウンター席に座った私は朝食を食べ終えて、珈琲を1杯飲み干した。お代わりの珈琲には砂糖をまぶしたクッキー付き。
海賊や海軍といった立場なしで考えるなら、100%この船の人たちは"良い奴"だった
先日マルコが私に言ってくれたように、みんな仲間思いでちょっと雑なところはあるけれど仲が良い
………私の心配は余計だったみたい
移した視線の先には、今日も食べかけのお皿に突っ伏したエースがいた。
いつもの事のように、みんなは笑って起きるまで見守ってる
ああなると、自分で起きるまでは中々起こせないと私も知っている。いつからあの癖が出始めたのか、今じゃもう覚えてないけど
「気になるか?」
『…ッ!?』
勢いよく視線を元に戻せば、カウンターに肘をついてエースの方を見つめるサッチ
何が、と言わずともその視線の先を見れば容易く言いたいことは分かる
『べっ、別に』
「アンタ、ほんとにわかりやすいな!」
頬杖を付きながら、私を見て笑う。そんなにわかりやすいのか?てか、気にしてなんかないし
「幼馴染なんだって?」
『あ、ああ』
珈琲カップを一旦置いて、呼吸を整える。落ち着こう。この人たちのペースに呑み込まれるな、色々と厄介だし
何かと私とエースの仲を気にしては、色んなことを言ってくる。恋話好きの乙女かって言うくらいに。それはもう、色々と。
みんな確実に、私が海兵だってこと忘れてると思う。
「昔っからこんな感じなわけじゃねーんだろ?」
『そうだが、今は昔とは違う。ただそれだけのことだ』
ご馳走様と空になったカップを渡し、食堂を後にする。横目で見ればエースはまだ寝ていた
「……だとよ。クールだねぇ」
誰も居ないはずの厨房で、少し口角を上げながらサッチは呟く
その声は、突っ伏したエース……ではなく、サッチの足元でしゃがみ込んだ隊長たちに向けられていた