第4章 クジラの背中
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誰もいなくなった夜の甲板は波の音しか聞こえない。
月の光が届かない曇り空の元では、手元の小さなランプだけが頼りになる
静かな、真夜中
「まだ起きてたのかよい」
そんな静寂を破ったのは、闇夜の中でも強く光る青い鳥。
否、不死鳥マルコ
全身に青い炎を纏った彼は、人の姿に戻りながら華麗に甲板に降り立った。その様子をじっと見ていた私は曖昧な返事を返す。
特に遅くまで起きている理由もなかったし、今彼と話すこともない。
けれどマルコの方は違うみたいだった
「一杯飲むか?」
『いい。私はまだ未成年だ』
「そう言うと思って、お子ちゃま用のオレンジジュースだ」
差し出した瓶を一度断るも、今度は子供扱いされて押し付けられた。そんなことを言われたら飲みにくい………けど、貰ったものを無下には出来なくて、コルク栓を抜いた
静かな夜に、瓶がきゅぽんと鳴いた
「…真面目なんだな」
『別に』
普通は敵である海賊から飲み物なんて貰って飲まないだろうに。ましてや海兵が海賊船に身を置く、なんてことも異常だ
「…エースと話してやらないのかよい」
あんな大怪我までして追ってきたのに、ここ最近まるで近づくなと言わんばかりに医務室に篭っている
本当は客人として乗っている身。自由に行き来したって誰も文句は言わない。親父がそうしたからな
『………』
今日のアレは、会話に入るんだろうか。
一方的に私が言いたいことを言っただけだし。
結局エースには好きにしろと言われたきり、それ以上話していない
「エースのためか」
『…っ、なんで』
それまで合わなかった視線が、ばちりとぶつかる
「見てればわかるよい。気づいてないのは本人くらいか」
イゾウといい、マルコといいどうしてこう、直ぐにバレてしまうのか
『そんなにわかりやすいのかな…』
ボソリと呟いた独り言も2人しか居ない甲板の上では容易く拾われてしまう
「そっちが素なのかよい!」
『!』
ニカッと笑うマルコに思わずドキリと心臓が跳ねる
この人ギャップありすぎなんじゃないだろうか…っ
ここの船の人達はどうしてこうも距離を詰めてくるんだろう