第4章 クジラの背中
『……何か』
じっと見つめてくる視線に耐え切れずに、視線を送る主に問いかけた
「いや別に。綺麗な髪だと思ってな」
ニコリともせずにそう告げる彼は、今し方ここへやってきた…確か、16番隊の隊長イゾウとかいう人物。女形で二丁拳銃の使い手。隊長を任されるだけの技量アリということになる
そんな彼が、ここにやって来るなりナースにメイク落としをくれないかと頼んで同じ机の席に座り込んだ
「はい、どうぞ。イゾウがメイク落とし切らすなんて珍しいわね」
「助かる。ちょっとした計算違いでな」
ここのナース達は皆バッチリメイクをして、ナースとは思えない際どい格好でいる。彼女たちも何らかの理由があってここに居るのだろうけど、私と違ってそこまで女を捨てていないということは、ここにいてすぐ分かった
『……まだ何か』
目的のものをもらっても依然として椅子に腰掛けたまま、テーブルに肘をついてその掌に自身の顎を乗せている。視線はこちらに向いたまま、一向に外れる気配がない
「…あんた化粧してないのか?」
『それが何か』
化粧をする習慣は正直言ってない。必要性を感じない。有名な将校や人員募集のポスターじゃあるまい。まだまだ駆け出しの海兵である私に、見た目を繕う必要はないのだ
「まさに"すっぴん"さんだな」
どういう意味?
化粧も何もしていない私は、文字通りのすっぴんだけど
その疑問は顔に現れていたようで、ちゃんとその意味を教えてくれた
「"すっぴん"って言葉は、元々 "素顔が別嬪" ていう意味らしいぜ」