第4章 クジラの背中
「……勝手にしろよ。どーせ俺には関係ねェよッ!」
バタンと荒々しく扉を閉めて食堂から飛び出て行った。
あーあ、と呆れた目でその後ろ姿を追うサッチとハルタ。依然笑みを浮かべたままのイゾウ。3人も一緒に立ち上がった
いつまでもこうして厨房の床に座り込んではいられない。
「お前らこれから暇だろ?エースの後つけとけよ」
大胆に肌蹴た和服の胸元に片腕を突っ込んで、2人を見る。
「おいおい、マジか?」
「本気であの子にちょっかい出しに行くのかよ」
少し狼狽えながらも、その口元には微かに笑みが浮かんでいた。ここまで首突っ込んだなら、きっとこの悪ノリにも乗っかってくる
それを指し示した笑みだった。
「決まりだな」
「ったく、イゾウにも困ったもんだぜ」
樽の小陰から、ひょこっとはみ出すフランスパン、否サッチの頭がやれやれと言った風に揺れ動く。
「でもイゾウが興味示すなんて珍しい」
「確かにな。そんなにエースを揶揄いたいのかねぇ」
さぁ、と言ったハルタの視線の先に映るのは、先程まで一緒にいたイゾウの姿。医務室で生活しているチエの元を本当に尋ねていた。
通路に面した医務室は入口が1つと、まん丸の小窓が2つ。サッチとハルタはその小窓が見える、通路の隅っこに隠れていた。ちょうど空樽を置いている通路からは、誰かが子窓に齧り着けばすぐ見える位置にあり、自分たちは空樽に隠れていれば見つからないという寸法だ。
ここから医務室の中はほんの少し見える程度で、今はイゾウの姿しか見えない。でも耳をすませば声は多少なりと聞こえる
そんな時、やってたのは本日のカモであるエースだった
「イゾウの奴、本当にチエのとこに来やがった……」
ボソリとそう呟く彼を、サッチとハルタは同じ気持ちで見つめていた
((お前も本当に来たんだな))
やはり、口でああ言っていても気になっているのは本当のようだ。でなければ、こんなストーキング紛いなことをするはずもない
(こっから見ると、本物のストーカーみたいで少し気持ち悪いな)
(……サッチ、それ多分僕らも一緒だと思う)
ここにまともな奴はきっと居ない