第4章 クジラの背中
チエが、客人として過ごす日々はとても快適と呼べるものではなかったと思う。
怪我の具合が良くなるまでは、医務室を出られないようで医務室から出るのは食事の時と風呂の時だけ
もちろん、共同の風呂は使わせられないのでナースたちの使う、女子部屋のシャワーを借りているのだ
その間、皆の視線は"変わり者の海兵"に突き刺さる
中には、からかうやつや足を引っ掛けて転ばせようとするやつ、セクハラしようとするやつ…
最後のは俺が全部ぶん殴っているが、他の嫌がらせは全部チエが難なく交わしていた。その後で何も言えなくなったクルーをマルコやサッチが叱るのだった
この船に乗っていれば、それは当然のこと。そんな小せェことするなんざ、男の風上にもおけねぇ、男なら正々堂々と……
「おい、エース。流石にもうやめといた方がいいと思うぞ」
「うんうん、いくら海賊でも」
「ストーキングはいけねェな」
キッチンの片付いた調理台から、目より上をひょっこりと出したエース。そしてその後ろで屈みながらコソコソと助言をする3人
「しーっ!!!俺はストーカーじゃねェつってんだろーがよ」
後ろの3人をキッと睨みつけて、人差し指を立てるが直ぐに視線を戻す。その先には言わずもがな朝食を取るチエの姿があった
「全く、堂々と言えばいいじゃねぇか、俺の女だってよォ」
顎に手を当てて不思議そうな顔をするのは、このキッチンのドンであるサッチ
「ぶふッ、だっ、誰が」
「でも、こうまでしてあの女海兵を守ってやりてェんだろ?」
艶のある髪をぱさりと揺らす、イゾウ。一見女性にも見えるその見姿とは裏腹に声は男のもので口調もそのままだ
「そうだよ!こないだなんてあの女海兵にサインもらおうとしてたスカルをぶん殴ってたじゃないか!」
一体いつどこでそんな場面を見ていたのか、エースだけが知っていることを何ともないように軽々と口にしてしまう、ハルタ
「えっ、有名なのか」
「まぁ、確かに元は美人だよな。」
「笑ったらどんな顔をするんだろう」
次々と勝手に喋り出す3人にギクギクっと肩をビクつかせた。そこにあるのはエースのこの行動と言いたくない理由
それを知ってか、3人はチエの話をエースの前でせずにはいられなかった