第4章 クジラの背中
それからチエが目を覚ましたのは2日後のことだった
『………ん…』
閉じられていた薄い瞼がゆっくりと持ち上げられる。まだ虚ろで、光をかすかに灯した深緑の瞳が徐々に姿を現していく
チエは乾いた喉を小さく鳴らした
頭が追いつかない。
あれから何がどうなった…?
そしてここ、どこだ……
起き上がろうと、手に力を入れるが痛みと違和感を同時に感じる。左手に何かがある。…握られている?
『っ!いっ、……てて』
軋む体に言うことをきかそうと、身を攀じる。少し力を入れただけで全身にビキビキと亀裂が入るかのような痛みが走った
『!?』
やっとの思いで起こした先には、黒髪でくせっ毛の人が突っ伏していた。
無論その人が誰かは顔を見なくともわかっていた。左手の違和感もこいつによるモノ。
『……エース』
こちらに向いた寝顔が、空いた時間の長さを実感させる
『少し…かっこよくなった?』
独り言のつもりで呟いた言葉だったのに、意外と部屋に響いてしまい我に返る
体の方はと言うと、薄緑色の病院服を着せられ、そこから覗く手足は包帯でぐるぐる巻きだ
枕の周りには最新の機器が取り揃えられていて、随分と手厚い処置をしてもらったらしい
「目が覚めたのね」
『っ!?』
突然奥の方から声と共に、コツコツとヒールの音が近づいてきた
視線をそちらに向けると、いたのは頭の良さそうなナース服の女
少し乱れた髪からしてきっと仮眠中だったのだろう。
さっきの、聞かれてないだろうか
『…手当をしてくれたのか』
「そこの新入りのお願いでね。」
それだけ言って、目も合わせずに機器の調整にあたった。その後で脈を測ったり、点滴を繋ぎ変えたりとテキパキ仕事しだした
それらが全て終わった時、ようやくナースはこちらを見た
「あなたがエースとどんな関係かは知らないけど、その子ずっとそばにいたのよ」
……やっぱり、聞こえてたか
『私はどれくらい眠っていた?』
「5、6日ってとこね」
『いつっ…!?うっ!!っ~~~』
驚きにナースの方を向くが、痛みが全身に走る
「ほら、寝て。肋骨と肋…胴体で3箇所折れてる。その他打撲に切傷……あんたほんとに女?」
『うるさい。』