第1章 元凶
「……おい、見ろよ、あれ」
「ああ…例の…」
皆声を潜めて、ある一人の人物に視線を向ける。向けられた本人はまたかと言うように眉を寄せながらも敬礼の姿勢を崩さず前を見た
「これより試験を開始する。まず初めに射撃からだ」
試験官の言葉にいち早く動いた彼女…チエはいくつかの鉄砲を何度か手に取り吟味したあと右から3番目のものを選んだ
「ちゃぁんと軽いの選んだかァ?」
「そんな細っこい腕じゃ吹き飛んじまうぜ〜」
銃を持った彼女を、何人かの大柄の男が冷やかしながら追い越していく。そいつらに銃口を向けたい気持ちを抑えつけ、殺気だけを存分に放った
「用意はいいか。構え、……」
3人ずつ並んだ一番端に彼女はいて、残りのメンバーはそれを正面に見ることになる。彼女の陰口を言った輩はその群れの中にいた
「撃てェ!!」
パアッン!!
「…ッ…!?…」
乾いた音と共に先程の2名の間を弾丸がすり抜けた
「こらお前!どこに撃っている!」
『すみません、蚊がいたもので』
ハキハキとした対応とは裏腹に冷たく重い視線が二人を射抜き、すっかり辺りのざわめきは消えていた
その後の試験でも彼女に敵う者はおらず、トップを独走することとなった。
夕方には結果が貼り出され、もちろんチエは合格。他数名合格者がいたが、チエ以外、めぼしい結果は特になかった
基礎体力、射撃能力、陣形形成力、記憶力、判断力、理解能力…あらゆる観点において彼女は軍を抜けていた
それもそのはず。彼女はあの"ゲンコツのガープ"に育てられた海兵なのだから
彼女が海軍へやってきたのは彼女が17の時。入隊直後ガープの船で鍛えられること約1年
彼女の中で一番の思い出はガープに思いっきりげんこつを落とされた事だろう。
その名の通り、ガープ中将は拳で相手を一網打尽にするお方なのだ。その方に稽古をつけられるということは当然、その結果も悪いわけがない
普通は今年の冬で訓練兵の卒業試験を受けるものだが、彼女はそれを入隊5ヶ月で軽々とパスし、今日見事に軍曹から准尉へと昇格した
飛び級で合格するのは彼女が初めてのことで、皆は異例のスピード昇格に驚くばかりだった