第8章 Pandora
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『…ぅ、』
深いところから、意識が浮かび上がりチエ は薄く目を開けた
足元で砂が沈んで、すぐに水が追いやってくる。ああ、海か、と足の感覚だけで判断し、また沈んでいく砂や押し寄せる波で体の感覚を起こし始めた。足先はしばらく海水に濡れていたようで、あまり冷たいと思わなかった
『ここ、は』
うつ伏せに倒れていたらしい。起き上がり、体に着いた砂を手で払いながら辺りを見渡した
枯れ木の流木に、どこから流れ着いたのか分からない謎の袋、少し砂に埋もれた貝殻。そして浜辺からそんなに遠くないところに森林の入口が見えている。空は青く広がっているが、ドーム状に覆われた狭い球体のようにも見える。まるで空の天井が低くなったみたいだ。
『…島』
漣の音だけが響く砂浜で、人の気配どころか鳥や生き物がいる感じもしない。何の変哲もない無人島に見えるが、胸のどこかに靄がかかっているみたいだ。
辺りの気配を一通り探ると、すぐそばに居たはずの気配がないことに急に気がついた。
『っ!ラルー!』
はたと気づいて、自分の周りを見回す。真っ白な羽が砂に埋もれていないか、両手で砂を探ったがその姿はどこにもなかった
渦に飲まれた時、そのまま流されてしまったのだろうか
そんな思考が不意に浮かんで、打ち消すように立ち上がった。急な動きにくらりと目眩がしたが、構わずチエ は当たりを駆け回った。
もしかしたら、別のところに流れ着いているのかもしれない。
先に目が覚めて、どこかを飛んでいるのかもしれない。
何度口笛を鳴らしても、砂浜を探し回ってもラルーの姿が見当たらない
『どうし…、ラルー…!どこ…、』
ラルーとは出会って間もないが、動物好きなチエ にとってはとても可愛がっていた存在だったし、何より疲弊しきった心の癒しだった
そしてその疲弊に追い打ちをかける一族の問題のせいで、チエ の精神はとうに疲れ切っていた。